『中村仲蔵』in「たつみ演劇BOX」@新開地劇場6月13日
『中村仲蔵』については、藤原竜也主演で舞台化しているとの情報を耳に挟んだことがあった。蜷川の秘蔵っ子だった藤原竜也。さほど興味が湧かなかったので、舞台は見ていない。「中村仲蔵」についても寡聞ながら知らなかった。それが先日、小泉たつみさんが幕間の口上で「明日やる『中村仲蔵』は『忠臣蔵』5段目の斧定九郎を考案した中村仲蔵についての芝居なんです」と言及されたことで、一気に興味が湧いた。落語通の連れ合いが「落語にあるよ」といったことで、余計に興味が募った。五段目の「山崎街道の場」、最初に感動したのは文楽劇場で見た歌舞伎記録映画でのことだった。記事にしている。
この場面で斧定九郎として名演技を見せた尾上辰之助。彼はこの翌年に亡くなるのだけれど、それもあって、白塗りの色悪が際立った印象を残した場面だった。「そうか、あの場面を考えたのが中村仲蔵という人だったんだ」と感無量だった。
そうとなれば、見ないわけにはゆかない。
この日は「劇団座KANSI」から6人の若手「助っ人」が助演。とても見応えのある舞台を作りあげていた。当時の歌舞伎の役者たちはきっとこのような人たちだったのだろうって、納得する舞台になっていた。
(初代)中村仲蔵は実在の人物。江戸中期の歌舞伎役者。中村仲蔵(たつみ)一時歌舞伎の舞台から離れていたのが、4年後に復帰、様々な工夫を四代目団十郎(金沢じゅん)に認められ、名代昇進にまでこぎつける。それを面白く思わないのが座付作者の金井三笑(小龍)。仲蔵の「名代昇進興行」で仲蔵に全く見せ場のない意地悪な配役をする。その役が『忠臣蔵』五段目の斧定九郎という端役。
打ちのめされて酒に溺れる仲蔵。今日も今日とて蕎麦屋で酒浸りの最中。そこへ入ってきた一人の浪人(ダイヤ)。破れた蛇の目傘を持って入って、そのまま蛇の目傘の雨しずくを振り切る。
これを見て閃いた仲蔵。そのままそっくり定九郎の所作として利用した。金井三笑の原作では定九郎は猟師の衣装だったのを、武士のそれに替えただけで、インパクトはまるで違ったものになった。五段目は大成功。これまでは退屈な場面だと思われていたのが、斧定九郎という魅力的な役を立ち上げたおかげで、評価が逆転することに。結果、仲蔵は高い評価を受け、作者の三笑からも讃えられることとなる。
もう一つの舞台演出で「さすが!」と思ったのが、決め場面で新開地劇場の客席を舞台に見立てるという工夫。「仲蔵の工夫を最初は観客が感動したあまり声も掛け声もかけなかった」というテイを採るため、客席に黙っているよう指導されたのが途中浪人姿のまま出て来られたダイヤさん。客も忠実にこの指導を「守って」、黙した舞台になりましたよね。
さらには「仲蔵の工夫が高い評価を得た後の歌舞伎舞台を当時の観客が見ている」というテイで、客席の後ろに潜り込んだ「座KANSAI」からのゲストさんたちが舞台の仲蔵に「堺屋!」と声をかけるというのも、臨場感があってよかった。
「座KANSAI」から来られた方々も非常に意識的に、積極的に「学ぼう」とする意欲が感じられました。是非ともご自分の劇団に持ち帰り、次のステージへの糧としていただきたいと思いました。
「たつみ演劇BOX」のすごいところはその完成度の高さです。大衆演劇の他劇団を見ようという意欲を削がれるのは、マイナスなんでしょうけれど。
「たつみ演劇BOX」の芝居はときとして歌舞伎を超えていると思います。猿之助が退いた現在、歌舞伎もかなりダメージを受けているでしょうね。そこにこの斬新かつ伝統遵守の「たつみ演劇BOX」ですよ。素晴らしいです。小泉たつみさん、ダイヤさん、小龍さんの三兄弟。奇跡とでもいうべき完成度の高い舞台を造りあげておられます。とにかく美しい!!!