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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『人生無情』劇団花吹雪@八尾グランドホテル 2011年1月4日

お芝居は『人生無情』。悲劇でした。

冒頭、駕篭屋の二人[(梁太郎さん、恵介さん)の長屋前での会話からはじまります。二人は博打でその日稼いだ金を全部使い果たしていました。、そこに駕篭屋の一人、熊の女房の虎(愛之介さん)が参戦し、亭主に小言をいいます。長屋の住人の雰囲気を髣髴させるものでした。

長屋の住人の一人、桜井一馬(春之丞さん)が帰ってきます。浪人生活も長く、貧しさも極限ですが、それでも武士のブライドは捨てていません。家では妹の小雪(かおりさん)が出迎えます。彼女も武士の娘らしく、品のよい、明るい娘です。

一馬の友人、新八郎(京之介さん)が訪ねてきて、一馬に良い話があるといいます。仕官の口がみつかったのかと、喜ぶ一馬ですが、そうではなく、小雪が外出した折に大店の「大丸屋」の御曹司、清三郎に見初められたというのです。嫁いだら兄が一人になってしまうと、最初は縁談を断る小雪ですが、二人に勧められ、縁談話を受けます。

新八郎が帰ったあと、兄、妹は風呂にでかけます。小雪が先に帰宅しますが、そこへ風呂屋の主人(松ノ介さん)が女(あきなさん)を連れてやってきます。風呂で簪が盗まれ、それを小雪が盗るのを見た証人として女を連れてきていたのです。小雪は身に覚えがないといいます。騒ぎを聞きつけて長屋の住人が集まってきます。主人に小雪の身体を検分するように言われた女は、小雪の着物の袂から簪を見つけ出します。驚く小雪

そこへ包みを抱えた一馬が帰宅します。話を聞き、風呂屋の主人にはあとで番屋に出向くといって、みんなを帰らせます。兄に厳しく問い詰められますが、小雪には申し開きができません。どうすれば身の潔白が証明できるのかと問う小雪に兄は自害しかないといいます。

決意し奥から短刀を持ってきた小雪ですが、なかなか踏み切れません。その背を兄が押します。前へ倒れこんで絶命する小雪。そこへ新八郎、そして風呂屋の主人が女を伴って現れます。「はやまったか!」と嘆く新八郎。驚き、悲嘆にくれる一馬。自分が盗んだ簪を小雪の袂に隠したのはその女だったのです。

大丸屋の清三郎も駆けつけ、小雪の亡骸を見て嘆き悲しみます。一馬は包みから花嫁衣裳の白無垢の打ちかけをとりだし、小雪に着せかけます。その場で小雪と清三郎の祝言をあげようというのです。新八郎が「高砂や」と歌いだしますが、涙にくれて後が続きません。全員が涙しているところで幕。 

 理屈からいうと、そこまで小雪に自害を勧めた兄の一馬が、なぜその場で一緒に死ななかったのかという疑問が出てしまいますが、それも春之丞さんの名演技で消えます。押さえた演技、それも哀しみを押し殺すという演技では、彼の右に出るものはいませんね。自身、煩悶しながらも武士のプライド、武士の倫理で小雪に自害を勧めざるをえない心のうちが、彼の肉体を通してみごとに表現されていました。

それとともに、なにか兄・妹のぬきさしならない関係のようなものを読み込んでしまいます。深層心理的にいえば、兄は妹を嫁がせたくなかったのではないでしょうか。人のものにするくらいなら死んだ方がマシと思っていたのではないでしょうか。

かおりさん、可憐で優しい、そして兄をひたすら頼りきった妹を演じてパーフェクトでした。