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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『花散る方へ』都若丸誕生日公演@新開地劇場2009年4月9日収録DVD

先日都若丸劇団を観に行った際に購入したDVD。帰宅してすぐに観ていたのに、記事を書くのが遅れてしまった。以下がそのあらまし。

<脚本・演出>  都若丸

<キャスト>

源久郎      都若丸

岡島隼人     葵好太郎

おしの      城月ひかる

音無の鉄五郎   都剛

浜吉屋・お八重  月宮弘子

浜吉屋・お島   都ゆかり

浜吉屋・お町   都るな

浜吉屋・おみき  都桜花

浪人・片岡    中川峰男

浪人・菊池    松永吉訓

町の大工・虎松  山田永二

町の大工・助吉  小泉敏生

稲妻組・鬼助   都星矢

稲妻組・猫八   都城太郎

稲妻の弥五郎   里見要次郎

浜吉屋・左平次  芦屋小雁

 

第一景  海岸  「源久郎と岡島隼人の出会い」

波打ち際に流れ着いた源久郎を助けた岡島は、彼を自分が逗留している遊郭の浜吉屋へ連れて行く。

 

第二景  浜吉屋おかみの部屋 「謎に包まれた男、源久郎」

人と話すこともなく、まるで人との関係を拒絶しているかのような源久郎を、遊郭宿の主人も女将も気味悪がっている。出来れば早く立ち退いて欲しいと願っているが、岡島は源久郎に同情的である。彼の中に自分と共通した鬱屈をみているから。ここで女将が女郎達を鼓舞する場面があるのですが、女郎の末席に東映の山田さんが連なっていて、そのメークに笑い転げました。どうみても可愛い女郎にはみえない。背が高く、どちらかといえば苦みばしった風貌ですから。この方、同じく東映の松永さんと一緒で、よく若丸さんのお芝居に登場されます。普段もそうですが、お茶目な方で、わたしもすっかりファンになりました。いらっしゃらないと大事なものが抜けたような感じさえしてしまうほど。若丸さんの誕生日公演には、このお二人はいつも重要な役どころで登場します。

 

第三景  色町の裏通り 「真実を知ることとなる源久郎」

岡島が漏らした言葉、「おしのは自分の殺された妻に似ている」から、源久郎は自分がしたことの重大さ、そして岡島と出会った運命の過酷さに慄然とする。

 

第四景  浜吉屋岡島の部屋 壱 「またもや絶たれる命」

源久郎の告白によって、一切が明るみに出る場である。源久郎は無実の罪で城を追われた。妻とやがて生まれてくる子のため、盗賊稲妻組の飼い犬、人斬りになった。稲妻組にいわれて岡島の妻子を斬った。「女子供を斬るのは厭だ」と断ったが、仕方なかった。自分の妻を人質にとられていたからである。岡島がおしのを贔屓にしているのは亡くなった妻に似いるからと聴き及び、岡島の妻を斬ったのが自分だと気づいた。自分を斬ってくれと岡島にいう源久郎。怯む岡島。深く頭を下げ謝る源久郎を斬れない。「そなたの妻はどうなった」と聞く岡島に源久郎は、「妻は手ごめにされ、自害していた」と答える。その仇をうつため、稲妻組の後を追ってこの地までやってきたものの、鉄砲で狙われたので、海に飛び込み、そこを岡島に助けられたのだと、顛末を語る源久郎。

 再度自分を斬るように岡島に促す源久郎。その源久郎に岡島は、「仇を討って、自分も死ぬつもりだった」と応える。そして江戸に上って自分の妻子の墓に手を合わせて欲しいという。二人で江戸をめざし旅立つことにする。名残をおしむおしの。おしのと二人にして欲しいという岡島を残して、部屋を出る源久郎。源久郎が出たあと、稲妻組の手のものが乱入。岡島とおしのは無惨にも殺される。

 浜吉屋を出た源久郎を、頬被りした稲妻の弥五郎が呼び止める。「おまえさん、見えないものが多すぎるんじゃないかい」といって、簪を落として去る。その簪を拾い上げ、おしののものだと気づく源久郎。「しまった!」と浜吉屋へ急ぐ。

 

第五景  浜吉屋岡島の部屋 弐 「自らを死神と名乗る男、源久郎」

岡島とおしのの亡骸をみて悲嘆にくれる源久郎。浜吉屋の亭主と女将に「死神」と自らを名乗る源久郎。二人の骨をもって、江戸に向かい岡島を妻子の墓に葬り、おしのは近くに墓を建てると約束する源久郎。

 

第六景  街道桜並木 「絶たれた命の仇、花散る方へ」

遺骨を胸に白装束の源久郎。その眼前に枝もたわわに茂るしだれ桜。黒装束の盗賊たちが登場する。源久郎は彼らと立ち回りになるが、盗賊すべてを斬り捨てる。最後に現れた稲妻組の弥五郎も一刀のもとに斬り捨て、念願の敵討をはたす源久郎。そこに「風に向かう者へ」の曲が流れる。「風に向かう者。胸に荒野あり」。胸をしめつけるような哀しみ。孤独。でもそれに向って行かねばならない。それが運命だから。「失うことから、すべては始まる」と覚悟するとき、人は孤独に向き合える。山梨鐐平さんのバラード。この曲をバックに幕。

若丸さんの今年の誕生日公演のお芝居、『BLADE』で最後の場面で使われていた曲「誰もが遠くでバラードを聴いている」も、この「風に向かう者へ」を作った山梨鐐平さんのオリジナルである。しかも、「風に向かう者へ」も『獣兵衛忍風帖』(別名Ninja Scroll)の中で使われた楽曲である。

この選曲をみても推察できるように、最新作の『BLADE』はこの『花散る方へ』の「続編」のような形をとっている。もっと正確には、「発展したバリエーション」というべきか。「発展」というのは、似たテーマを扱いながら、さらに歴史的事実を絡ませストーリーを複雑にし、洗練度をあげているから。加えて、主人公の虚無がどこか宗教的なにおいのするくらい、より深刻なものとして描かれているから。それは妻子を殺されたことだけによるのではなく、人が根源的に抱える闇によるのだ。復讐を完結した返り血の彦左。でも虚しさは消えなかった。『BLADE』に比べると、この『花散る方へ』その辺りの描き方は軽かったように思う。そこに若丸さんのこの四年間の目覚ましい「発展」ぶりをみることができる。「常に進化すること」を目標にしている、いかにも若丸さんらしい。そういうところ、ただただ感服。