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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『浪人街』大川良太郎座長with都若丸・小泉たつみ・小泉ダイヤ各座長@羅い舞座京橋劇場8月19日昼の部

マキノ正博監督映画であまりにも有名な『浪人街』。この日はお芝居からの開始。筋は以下。

時は幕末。場所は江戸。ある神社境内。女(かおり)が旗本に捕まっている。女が財布を盗ったというのだ。いいがかりだといって、抵抗する女。そこに通りかかった浪人、母衣権兵衛(たつみ)。女を助けようとするが、旗本たちは女を放さない。でも財布は草むらに落ちているところを見つかった。仕方なく女を解放する旗本たち。そのうちの二人は兄弟である(年嵩の方を若丸さんの誕生日公演でもおなじみの東映の俳優さん、歳下を金沢伸吾さん)。礼をいう女。女に関しては初心な権兵衛はこの女、お新に惚れてしまう。でも実際にはこれは濡衣ではなく、お新は実際には巾着切りをしたのだった。権兵衛にその種明かしをしてみせるところ、まだお新には実が残っている。その盗みも自分の男のためだったなんて、健気である。

江戸の呑み屋。呑ん兵衛の赤牛弥五右衛門(若丸)がくだを巻いている。そこの常連、浪人の荒牧源内(良太郎)こそお新のヒモ/男だった。お新はあくまでも金ズルだと嘯く源内。店にやって来た権兵衛はそれを聞いて怒る。そこへお新が帰って来る。源内に金を渡し、短銃を源内に向ける。もう「源内のヒモ」にはうんざりだという。

江戸の町では夜鷹をねらった辻斬りが頻発している。その現場を呑み屋の主人(九州男)が目撃してしまった。その辻斬りは旗本の兄の侍の仕業だったのだ。翌日、辻斬りを目撃した証人として、呑み屋の主人は役人から呼び出しを受ける。だが、無惨な死体となって帰って来る。死体とともにやってきた例の旗本と取り巻きの侍たちは、呑み屋主人を「虚偽の証言をした廉で手打ちにした」というのだ。旗本たちに喰ってかかるお新。 

場はかわって、女郎屋。女(ひかる)と源内がしっぽりとしている。女は源内が剣の果たし合いで殺してしまった幼なじみの侍、市之進の妻だった。今は苦界に身を落としている。女はもともと二人の幼なじみだったのだ。市之進の妻になった後も源内が忘れられなかったという。自分も同じだという源内。そこに市之進の弟(ダイヤ)が乗り込んで来る。仇討ちにきたのだ。だが、あっさりと源内に右腕を斬られてしまう。剣を持つことができなければ、仇討ちを諦めるだろう、そうすれば命を長らえることもできるだろうという源内の「配慮」。源内は腕の立つ剣豪だったのだ。

辻斬りの真犯人の旗本の持っている剣は邪剣だった。それは持ち手の心を反映する剣で、この悪旗本の心を反映して血を見ずには収まらなくなっていた。でも、もとは困窮した浪人が仕方なく質草にしたものだった。 

赤牛と旗本の弟の方が呑みかわしている。実はこの弟、兄が辻斬り犯人とは知らない。すっかり意気投合した(かにみえる)二人。赤牛が他の二人の浪人とは気質がかなり異なっていることが、この場から読み取れる。黒白をはっきりさせるタイプでははく、一見日和見的なキャラである。複雑なキャラ。この役が一番演じにくい役柄だと思う。だから一番上手い役者を割り当てる。若丸さんで正解。というか脚本・演出ともに彼なんでしょうけど。

お新は旗本たちをおびき寄せようとするが、逆に捕まってしまう。旗本たちは「お新を捕えている。救いたければ取り返しに来い」という果たし状を届けて来る。権兵衛はもちろん駆けつけるという。赤牛は行かないという。そして源内。幼なじみの女といるところに、知らせが届く。彼の出した答えは「行く」だった。お新に惚れていることを認めた瞬間。相手の女も諦めざるを得ない。

権兵衛、源内が駆けつけると、お新は十字架状の柱にはり付け状態で括られていた。ここからが東映の俳優さんたち、そして殺陣の得意な良太郎、たつみ各座長の見せ場。そしてなんと、そこに赤牛の姿が。「裏切ったのか」と怒る旗本弟。「いや、表還ったのだ」と応える赤牛。

お新を縄から解き、権兵衛、源内につれて行くようにという赤牛。自分が決着をつけるという。仕方なくお新を連れて去る源内と権兵衛。 

ここからがこの芝居の最大の見せ場。若丸さんの見せ場。誕生日公演の『森の石松』を思わせる壮絶な最期。敵を倒して行くのだが、身体は刺され、斬られてぼろぼろ。それでも渾身の力をふり絞って立ち向かう。斬られては立ち向かい、斬られては立ち向かいの繰り返し。ことごとく敵を成敗したところで、彼も力尽きる。バタッと仰向けに倒れ込む。暗闇の中、上から一條のスポットライトが彼の崇高な姿を浮き上がらせる。崇高ではあるのだけれど、やっぱり虚しい。哀しい。 

最終場。源内とお新が京都へ旅立つ権兵衛を見送っている。権兵衛は佐幕/倒幕の動乱の様を自分の目で確かめに京に上るのだという。権兵衛に泣きついて名残を惜しむお新。去ってゆく権兵衛。

権兵衛の姿が見えなくなってから、財布を源内に渡すお新。なんと先ほど権兵衛の懐からすっていたのだ。さすがに呆れる源内に、「こうしたら、(権兵衛)旦那も私を諦められるだろうから」というお新。遠くから権兵衛の叫ぶ声。「財布を盗られた!」。

良太郎さん、若丸さん、たつみさん、ダイヤさん、それぞれのニンにあった役柄がこの芝居の完成度を高くしていた。役柄を座長さんたちそれぞれに合わせて作り替えたのかと思うくらい。しかもそのニンにぴったりの「見せ場」があった。各座長ファンたちも満足だったのでは。

お芝居には若丸劇団でおなじみの東映の俳優さんが常連の松永さん、山田さん以外にも10人ばかり(あとの方々は若丸さんの誕生日公演のおなじみさん)参加していた。そのおかげで殺陣の部分に昨今の大衆演劇にはない迫力があった。これも若丸さんの人徳だろう。若丸さんの芝居にかける熱意、情熱、真摯さにうたれ、肝胆相照らすところがあるからここまでつきあって下さるのだと思う。

芝居が長かったので舞踊曲は各座長一曲づつ(若丸さんの「決定」だったそう)。