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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『火の車』都若丸劇団@梅田呉服座 7月20日昼の部

劇場に行って驚いた。人、人、人!席を予約していなかったので、開演20分前に行ったのだけれど補助席。通路の補助席だったけど、呉服座は客席が階段状になっている上に補助椅子が座席より高いので、見やすさ120パーセント。舞台、客席全体を俯瞰できて、大満足。 

梅田呉服座がこんなに人で埋まるのを初めて見た。でも当然といえば当然。今日のお芝居は喜劇だったのだけれど、このはじけぶり。それに座員一人一人がとにかく上手い。阿吽の呼吸で座長(とそのアドリブ)について行っている。他のどの劇団もこの完成度の高さは及ばない。すばらしいの一言。「日本一!」と今日はかけ声がかからなかったけど、常にそう。私にとっては世界一!充実度と観客の満足度はまさにそう。高踏派を気取っている小劇場系の「演劇関係者」にみせたい。海外にもあまねくPRし、欧米、アジア、その他の地域から客を招来したい。アニメ等の「日本文化」がこんなにももてはやされているのだから、外国人を惹き付ける可能性はきわめて高い。ただ、都若丸劇団とあといくつかの劇団だけだろうけれど。その中でも若丸さんのところは図抜けている。 

歌舞伎が江戸時代にもっていたある種の猥雑さーーそれはエンターテインメントにはつきものなんだけどーーを残しているのは大衆演劇なんだと思う。今の歌舞伎はあまりにもそういう猥雑さを忘れ去っている。故勘三郎の歌舞伎の原点に戻ろうとした試みも現在の歌舞伎の在り方への挑戦だったのでは。

今日の舞台をみて、その感が一層強まった。客席との一体感、これは実際にその場に身を置かないと分からないだろう。舞台と客席のパワーがひとつになって迸る。なんともワクワクする体験。これぞ観劇の醍醐味。客席の年齢層は今までみてきたなかではいちばん若かった。これもあのパワーの理由だろうと納得。以下があらすじ。

上方のやくざ一家。貸元(城太郎)はその人徳から「仏の善兵衛」とよばれている。今日もみかじめ集めに回っているが、腰にドスは差していない。彼に付き従っている子分二人(紗助、雅輝)も同様である。彼の用心棒(英樹)は貸元が人の善いのをいいことに、一家を乗っ取るつもりである。

 

貸元に自分を跡継ぎにするように掛け合ったが、それを断られた用心棒、その場で貸元と子分二人を斬り殺す。他の子分たち(舞斗、虎徹、あきら、山田さん)はすでにこの用心棒側についている。騒ぎを聞きつけて出て来た貸元の後妻(ゆかり)、虫の息の貸元から、真犯人が用心棒だと聞かされる。彼は今は一家を出て堅気になっている息子、善吉に仇討ちをするように伝えてくれと言い残して、死んで行く。

 

亡くなった貸元の枕辺。後妻、用心棒、それに子分が控えている。嘆き悲しむ妻。用心棒はその後妻に自分の妻になるように口説く。承諾(する振りを)する後妻。その場にどこからともなく幽霊登場。それは貸元とその子分の幽霊だった。貸元は妻の裏切りを嘆く。死んでも死にきれない、これだと三途の川を渡ることはできないという。

 

そこに死神(若丸)登場!鼻の頭を赤く塗ってまるでピエロのような珍妙な顔。頭には白い頭巾。手には髑髏の付いた棒を持って。客席大爆笑。

 

誰かと尋ねる幽霊の貸元に、自分は死神、それも大阪支部「への三番」の死神だという。三人が大人しく三途の川の渡し船に乗らないと「減給」されるのだという。貸元はなんとしても息子に仇討ちをするよう伝えたいという。仇討ちが叶えば、舟に乗るという。仕方なくその「仕事」を請け負う死神。

 

ここでも、若丸さんの「やりたい放題」の一端が。死体の枕元でじっとしているゆかりさん、英樹さん二人を笑わせようとします。最後には二人それぞれに向かって、「なにこの中途半端さ。若いのか年取ってんのか、太いのか細いのか、分かれへん」。お二人はなんとか堪えていましたが、客席は大笑い(すみません)。挙げ句の果てに、退場するときの決め台詞、「良い人は天国に、悪い人は地獄に、普通の人は中国に行きまーす」!

 

所かわり、善吉の蕎麦屋。店じまいをしようと善吉が暖簾を下ろす(この暖簾、縄状の紐でできていました。さすが)。そこにおどろおどろしい音楽とともにやって来た死神。「どなたですか」と尋ねる善吉に「死神だ。これを見ろ」と言いつつ、棒先についた髑髏を近づける。怖がらない善吉。挙げ句の果てに死神の白い頭巾をみて、「あなた、給食当番?」!以前に見た時もここで笑いましたが、今回もまた爆笑。

 

「あんたの父親に仇討ちを頼まれた。用心棒と後妻を恨めしいといっていた」と、死神。すると、どこからともなくヘンな音楽が。若い女性の幽霊(ゆきか)が登場。「ウラメシヤ」を連発する。「うるさい!あっちへ行け」と一喝する死神。「おじさんに怒られた」と去って行く幽霊。またまた、二人連れの幽霊(ひかる、はるか)登場。まるで歌舞伎『牡丹灯籠』のお露と乳母、お米。「オトコが欲しい」を連発する。死神、「ここは上方やのに、なんで江戸(芝居)の『牡丹灯籠』が出て来るねん」と怒る。「(私の)オトコになって下さい」と迫るはるかさんに向かって、「お前、まるでおっさんやんか」。「おっさんに『おっさん』いわれたー」と、「嘆きつつ」去ってゆくお露とお米。笑えました。この凝り方にも感心しました。善吉の「落武者みたい」という言葉に反応して(?)またまたヘンな幽霊登場。今度は落武者の幽霊(星矢)。幽霊になった経緯を説明する。これもあまりにも妙ちきりんな話で、笑えます。追い返されそうになったこの落武者、両胸に当てていた布を一つづつはがし、「チチでーす」、「ハハでーす」!笑い転げました。

 

ようよう幽霊たちが退場。「おやじが死んだのは自業自得やから、仇討ちはせえへん」と突っぱねる善吉。死神はなんとか「説得」しようとする。「あんたのオヤジはあんたに十分な親らしいことをしてやらなかったと後悔していた」という言葉に反応する善吉。仇討ちをすることを決意、オヤジのところへ連れて行ってくれと死神に頼む。

 

ここからが抱腹絶倒喜劇のクライマックス。時間がないので死神持参の「火の車」で出かけるということになる。それは日傘だった。「なんや、娘のもつ傘やないか」という剛さんの弁を聞いて、「野崎参りーはー」と歌い出す座長。

 

ここでの「火の車」を運転する二人のやりとりも笑えます。傘と傘の柄先を突き合わせ、手で柄を回すのですが、座長が右手を上げると右に、剛さんが左手を上げると左に回ることになる(はず)だったのに、タイミングがなかなか合わない(ふりをしている)。スッタモンダの大騒動。「つかえているときには自分の肩を叩け」と座長。強く叩く剛さん。すると座長、一声。「どかんかい!」今度はやさしく叩く剛さん。するとやさしーい声で「どいていただけませんか」。笑えました。これを面白がって4回ばかりやる剛さん。おしまいには「やめろ!」と座長。

 

「ちゃんちゃかちゃー、ちゃかちゃかちゃー」という歌舞伎ではおなじみの車が走る時の音楽がかかる。二人は火の車で一家に殴り込みをかける。用心棒と善吉が刀を交えているそのとき、後妻のお龍が用心棒の背中に短刀を突き刺す。でも用心棒の返した刀で、お龍は斬られる。感動する善吉。「おとうはん、仇は討ちましたで。安心して成仏しなはれ」という。さらに付け加えて、「お龍はんもおっつけそちらに行くやろけど、お龍はんを祖末にしたらあかん」。「あんた、羨ましいなー。そちらにはおかあはんもいる。あんたは死んでからも両手に花か。ウラヤマシイ」。

 

さて、ここで化粧かえをした若丸さん登場。メイクが180パーセント変っていた。宝塚レビュー風?これでもかというほどの濃いアイメイク。口紅をくっきりとつけて。顔替えの座長、その顔で剛さんを笑せようとする。 こらえる剛さん。

 

用心棒をはじめ悪い奴らはすべて括られ、(あちら世界の)役人に連れて行かれる。

 

幽霊善兵衛門に向かって若丸座長、「向こう(天国)には前の嫁はんもいるんや 天国行っても地獄やな」。

以下、<舞踊ショー>。 めぼしいもののみ。間違いあればご容赦。

第一部

若丸  立ち     赤穂城の内蔵助

袴姿で。間に入る台詞のくちぱく部も完璧。内蔵助の無念を伝えて、胸に迫った。

 

第三部

男性群舞       八木節

ひょっとこ面をつけて。躍動感、リズム感がステキ。このアイデアも斬新。

ゆかり        やっぱ好きやねん  

若丸   女形    他人の関係

金髪鬘に黒えんじ地にピンク色の牡丹柄が入った着物で。写真がないのが残念。

群舞  女性陣と座長  京おんな

星矢         雪燃えて

白い着物の浪人姿で。

紗助        俺たちの春

みる度に上手くなっている。

剛   立ち    鏡花水月

長身を生かした踊り。裾に牡丹(?)の艶やかな花の着物で。

若丸  歌     ひとり旅

舞斗        誇れる男に  

「どんな曲ですか?」と舞斗さんに聞く座長。「誇れる男に」と聞いて、「その前に賢い男になってください」。

若丸  立ち   雪が降れば

ご自分で作詞・作曲・歌唱の曲。しみじみと心にしみわたる。

白着物に白羽織、それに黒帯を締めて。 白草履も粋。

キャプテン      現世の子守唄

ラスト      じょんがら女節