『幽霊とはらみ女と風来坊』都若丸劇団@羅い舞座京橋劇場 3月5日昼の部
今日は都紗助さんの誕生日公演だった。お芝居でも「準」主役という重要な役どころ。緊張のあまり、台詞を間違えたり、噛んだりするなんてハプニングもあったけど、それも逆にほのぼのした感じがしてチャーミングだった。いつも一生懸命な紗助さん。その真面目さ、熱心さが凝縮されたような舞台だった。
また座長を始め、座員さんたち全員で彼をもりたてようとしている雰囲気で、観ている側の心にもポッと灯を点してくれた。お芝居もそうだけど、舞踊ショー途中の「ミックスッジュース」でも、紗助さんを祝うという、座員一同の気持ちが伝わってきた。
お芝居の『幽霊とはらみ女と風来坊』、若丸座長によると何(十)年も舞台に乗っていないお芝居とのこと。当然座長を除く座員全員が知らない芝居。もちろん演じるのも初めて。でもこの完成度の高さ。以下がおおまかな筋。
大工の長吉(若丸)、身重の妻がいるにもかかわらず、博打が止められない。今日も今日とて賭場で有り金すべてをすってしまった。女房に申し訳が立たないと、寺箱から十両を盗って逃げたところ、犬に吠えられてその金をすべて落としてしまうというトンマさ。
長吉が掴み銭をした賭場は野中一家のものだった。親分(剛)とその子分たちが、長吉の後を追ってくる。親分は長吉が落とした十両そっくり拾っていた。長吉にどうオトシマエを付けさそうかと相談している。もう十両をふんだくり、その上長吉の女房お久(ひかる)を女郎屋に売り飛ばすという算段である。
茶店の前。そこから若い男(紗助)が飛び出して来る。風体から侍崩れのよう。奥から茶店の亭主(城太郎)が追って出て来る。どうも食い逃げをしたらしい。ところがこの男の身の上話を聴いた亭主、いたく同情、食い逃げをチャラにしただけでなく一両を彼に恵んでやる。亭主が奥に引っ込んだ途端、この若い男、さきほどの殊勝振りはどこへやら。「しめしめ」とばかりにせしめた一両を自身の巾着に納め、これで持ち金が十両になったとほくそ笑む。
一部始終を物陰から観ていた長吉、出て来て入水する真似をしてみせる。知らん顔で行き過ぎる若い男。何度もやってみせる。ここのところ、オカシカッタ。紗助さんの天然ぶりをうまく自分にひきつけ、それで喜劇に転換してしまう若丸さんの絶妙の間の取り方。上手いですね。結局は長吉に同情(する羽目になり)、十両そっくり彼に恵んでやる。そこへ話を聴いて怒り心頭の茶店の亭主が出て来て、若い男の着物を一両替わりに持って行く。下着姿というなんともしまらない姿の若い男。
若い男が引っ込んだ後、野中親分と子分がやって来る。親分に十両渡す長吉。ところが親分はそれでは済まない、お久を連れて行くという。抵抗する長吉。親分の手がすべり、長吉を斬ってしまう。
例の若い男が戻って来る。倒れている長吉をみて、驚く。瀕死の長吉から一部始終を聴き憤慨する。ここからが、死んだはずの人がなんども「起き上がって」奇妙奇天烈な言動をするという、「若丸芝居」十八番のシーン。これも抱腹絶倒劇。この男が案外人が良いと見込んだ長吉、彼にお久を逃してくれるよう頼む。仕方なく引き受ける男(そういや、ナンて名前だったんでしょう?記録していません。ご容赦)。
頼まれた通り、お久を訪ねる男。お久は裸の男に驚くが、彼を家に入れ話を聞く。「長吉は江戸に出稼ぎに行った」と嘘を言うが、信じないお久。お久が奥へ引っ込んだ後、男の前に幽霊になった長吉が現れる。なんでも三途の川を渡る舟が満員で(!)乗れなかったので、家に戻って来たのだとのこと。
野中一家が押しかけて来る。それを一人で迎え撃つ男。到底かなう相手たちではない。突如、一家の者全員がドスがうまくつかえなくなる。幽霊になった長吉が邪魔をしたのだった。ほうほうの態で逃げ出す一家。
しかしこれで諦めた訳ではない。再度押しかけて来て、お久を連れて行ってしまう。男はその後を追って一家に乗り込むことになる。長吉の幽霊も付いて来てくれるが、時々中座する。この中座の理由がオカシイ。厠に行くという。ところがすぐに帰ってくる。なんでも幽霊になってしまうと出るものが出なくなるとか。幽霊さん、最終的には男の手助けをして、一家の者すべてを殺す。
幽霊は最後の頼みとして、男にお久と生まれて来る子の面倒をみてくれるよう頼む。引き受ける男。子供と二人で生きて行くというお久を説得、彼女の面倒をみることを承諾させる。お久とともに長吉宅に帰って行く男の背に向かって、「お久に手をつけたらアカン」と理不尽な言葉をかける幽霊長吉。
<舞踊ショー> 控えたもののみ。
第一部
若丸 立ち 「Hotel」
いきなりとんぼ返りで登場。黒のレース地にラメの刺繍のある着物。 乱れた長髪で。
第三部
若丸 女形 「ひまわり」
総花柄の華やかなお着物で。ひまわりということで裾からみえる裏地もひまわり色。鬘はこれまた茶の乱れ髪で。舞うたびにキラキラする簪がステキだった。
紗助 立ち 「君がため」
白地に黒模様のお着物に長髪鬘で。
星矢 「白神が故郷」
袈裟に笠を被った僧侶姿で。ぴたりとはまっているように魅せるところ、さすが星矢さん。
中舞踊 「夜叉のように」
般若面を付けて。ここでも普段なら前面に座長を中心にして両脇を副座長、花形で決めるところ、今日は紗助さんが中央で。優しい!そしてその優しさに全身で応える紗助さん。
剛 「桜貝」
白地の着物に黒帯。上は立ち襟の白マント姿で。黒の短髪鬘がなんとも凛々しくてシャープ。
若丸 立ち 「舟歌」
アップル・ブロッサムっていうんでしょうか、渋めのローズ色のお着物で。鬘は赤がかったブルネット。
ラスト 「愛と欲望の日々」
スタートは「いろはもみじ」から。転じて「愛と欲望の日々」。これも何度みてもその構成のみごとさに感心する。振付けとそれを的確に間違いなく表現できる座員全員が一丸となったパーフェクトな舞台。座長はクリーム地にゴールド模様の(多分ブランドの)着物で。