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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『紺屋と高尾』劇団美山@朝日劇場 8月17日昼の部 

ミニショーを潰しての通し狂言。長い芝居をこの長さに縮め、役の数を減らし、その上で意味が通るようにするのはさぞ難しかっただろう。でも成功していた。「恋患い」の場面(座長の独り舞台に近い)がちょっと長過ぎる感はあったけど。

人口に膾炙した話だけれど、いちおう以下がその筋。

幕開けから花魁高尾(こうた)の花魁道中。目も覚めるばかりの艶やかさである。

浪花にある紺屋(染物屋)に奉公している久蔵(たかし)。5歳の歳から奉公していて、仕事一筋の真面目な職人。ところが親方の使いで江戸に行き、帰って以来どうも様子が変である。医者(祐樹)にみてもらっても、原因が分からないという。親方(喜代子)も久蔵の実の母親(愛)も心配している。一緒にいった二人の職人仲間(京馬・笑窪)に聞き質したたところ、初めは「知らない」といっていたのが、「吉原で花魁道中をみて以来おかしい」と白状する。三人でなんと吉原に行っていたのだ。

そこへ当の久蔵が奥から出て来る。みんなに「一体なにが原因でそうなったのだ」と聞かれ、遂に花魁の高尾に惚れてしまった恋患いだ「告白」する。一同大笑い。到底無理な話だからあきらめろと諭すが、久蔵はそれなら「死ぬ」とまでいう。困り果てる一同。それを「解決」したのは親方の一言。女将(美嘉)にどれほど久蔵が貯めた金があるかと聞く。25両とのこたえ。一晩花魁、それも最高位の花魁を「買う」には最低でも50両が必要。親方はそこで一つの提案をする。これから必死で働いたら、足らない25両を埋めてやるという。

1年後。久蔵はやっと50両を手にすることができた。医者の池の竹内蘭石を仲介者にして、久蔵はいよいよ吉原に「乗り込んだ」のだ。だが、一介の紺屋職人では高尾太夫に会うことすらできない。蘭石の発案で久蔵は大坂は堂島の米問屋のお大尽ということにしている。問題は久蔵が喋れば大尽でないことがバレてしまうだろうということ。「大きく偉そうに」みせるため懐手をし、話しかけられた折の返答はすべて「おう」で通すように蘭石が決める。ここでの座長の「おう」がケッサクでした。「動物園から来たのか」と祐樹さんにつっこまれていました。ホント、まるでオットセイみたいだった。

座敷に通されても緊張のあまりいろいろな失敗をする久蔵。履いてきた股引を脱ぐのにてんやわんや。挙げ句の果てに脱いだ股引を衣桁にかかった豪華な花魁の打掛の上にひっかける始末。場内爆笑。

やっと高尾がやってくる。煙草盆の前に座り、キセルに詰めた煙草に火をつけて久蔵に差し出す。このとき久蔵は懐手をしているため手が使えず、口をキセルの吸い口に近づけなんとか吸おうとする。珍妙な体勢。ここでも爆笑。高尾は吉原花魁のことば、「ありんす」、「なまし」を連発。こうたさん、役に入り込んで上手い!たかし・こうたの掛け合いも秀逸でした。

緊張感と罪悪感に耐えきれなくなった久蔵。ついに大尽というのは真っ赤な嘘だと打ち明ける。でも高尾が驚く様子もない。分かっていたという。1年前の花魁道中をみて以来高尾に恋いこがれ、お金を必死で貯めてここにやって来たのだと久蔵が話すのを聞き、高尾は自分も久蔵を覚えていたという。ここはいささか無理がありました。

初会は顔合わせのみというのが、吉原の習い。次に逢いたいと願っても、またまた大金を積まなくてはそれは叶わない。自分には無理なのであきらめるという久蔵。それを聞いた高尾太夫。年季が来年の3月15日にあけるので、それまで待ってくれという。どういう意味かと訝しがる久蔵に、妻にしてくれという意味だという高尾。あまりにも非現実的なので、信じ難い久蔵の様子をみて、高尾は起請文を書く。それを手に久蔵は大坂へと帰って行く。

江戸から久蔵が帰ってからもう1年近く経った。高尾との約束の3月15日はとっくに過ぎているが、高尾から連絡はない。紺屋の親方はハナから花魁のことばなど信じていない。職人仲間、久蔵の母親まで久蔵が騙されているのだと思っている始末。そろそろ諦めて、妻を娶るようにと諭す。

そこへ高尾がやって来る。最高位の花魁だっただけあり、美しい。また着ている着物も、垢抜けて上品。久蔵に来るのが遅くなった詫びを言う。やっと一緒になれると喜ぶ久蔵。そんな二人の様子に水を差したのは久蔵の母だった。そんな召し物を着て、紺屋の女房は務まらないという。それを聞いた高尾は近くにあった染め物の盥のなかに手を突っ込み、手を真っ青の藍色に染めてみせる。久蔵の母もこれで高尾の「実」を信じた。めでたく二人は一緒になる。 

久蔵が花魁道中に行き逢い、花魁が彼に向かって「笑った」という行は歌舞伎の『籠釣瓶』を連想させる。もっともこの「笑う」というのは、六世歌右衛門が始めたことらしく、ごく新しい趣向だそうだけど。男性版シンデレラ物語といったところか。ファンタジーに近いのは、当時の花魁のことばはあくまでも客サービスの「嘘」というのが常識だったからであろう。

この日の口上での祐樹さんの「かぶりもの」はジャッキー・チェン(?)の着ぐるみだった。手にはヌンチャクを持って。怪しい中国語で挨拶。横の座長に叩かれ、舞台の上手に移動。オカシイ。

以下に舞踊ショー内容を。

こうた(女形)たかし(立ち) 「月の雫」
こうたさんはローズ色のたかしさんは深いブルーの着物、それもキラキラ刺繍の入った着物で。

美嘉・笑窪・たかし  「木遣り恋唄」

祐樹   「三六五日」

たかし 立ち  「ぐでんぐでん」

京馬    「花になれ」

こうた  女形役者姿で   「お役者仁義」

祐樹    「緋牡丹お竜」

笑窪・美月・ゆめ  「?」

美嘉   「はがゆい唇」
きれいな水色の着物。裾からエメラルドグリーンの裏地がみえて。お綺麗。お誕生日だけでなく、ソロで踊られる機会が増えたのかもしれない。うれしい。

京馬 立ち  「優しい光」
ギズモが裾に入った着物で。よっぽどお好きなんでしょう。

こうた  立ち 「夜空」

あおい・ゆめ  「?」

こうた   「俄か雨」

 

たかし 女形  「酔って膝まくら」

こうた 立ち  「For You」
こちらは裾にキティちゃんが入った着物で。

虎次郎    「炎」

ラストショー「あげは」
曲は「月がわたし」、「Bad Romance」
たかしさんが蝶を模した羽をつけた 花魁の打掛を着て。
座員は羽根の扇を持って。

30分前に劇場に着いたのだけど補助席だった。お昼だけでダブルの大入り。1年ぶりの朝日劇場ということで、待ちかねていたファンがいっぱいいたのでしょうね。