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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『忠治流浪笠』劇団美山@池田呉服座4月12日昼の部

授業後に駆けつけたので、芝居の途中からだった。ものすごい人で、やっと隅の一席空いていたところに潜り込んだ。芝居は佳境に入ったところで、忠治(座長)が子分の友二郎(京馬)とともに、茶店で休んでいるシーン。以下、そのあとの筋を。

友二郎(名前が間違っているかも)は何年か前に妻を残し、堅気をやめて元親分だった忠治の下に付いたのだ。忠治は悪代官松井重兵衛を斬ったかどで追われる身である。多くの子分も一人去り、二人去り、今は友三郎が唯一の子分である。立てこもっていた赤城山を抜けて、忠治は子分とともに茶店のある場所にやってきたのだ。というのもそこは友二郎が妻といた土地だったからである。

 

忠治が茶店の老婆(えくぼ)に、その後の友二郎の妻の消息を聴いている。茶店の老婆から友三郎の妻が土地の親分に連れ去られたと聞いた忠治、彼に女房を取り返すよう促す。そして鍔止めを施したドスを彼に返す。

 

場面替わって、土地の親分(祐樹)の家。そこに友二郎が妻(みか)を連れ戻しに来ている。渋って難題を吹っかける親分。思いあまった末、ついに切れる友二郎に、親分の子分たちが斬り掛かる。しかし彼のドスには刃止めがしてあって、抜けない。どこまでも卑怯な親分は鉄砲を取り出し、友二郎に狙いを定める。そこへ登場したのが忠治。子分たち、最後には親分をあの世送りにする。友二郎とその妻に、堅気に戻って幸せに暮らすようにと手向けをし、二人を見送る忠治で幕。

この芝居は他劇団でも何回か観たおぼえがある。この手の芝居は特に苦手で今のご時世に親分/子分、義理立て、忠義立てはないだろうと、鼻白むのが常だった。しかし、今日は違った。けっこう楽しめた。それはなによりも、この芝居のフレーム自体を決定している座長のたかしさんの感覚が、新しい所為なのだと気づいた。九州系の劇団で必ずみせられるこの手の芝居、あまりにも古色蒼然なので、まっとうに、忠実に演じる構成にすると、それだけで時代との埋められない齟齬が生じることになる。でもたかしさんの切り口はその「古さ」を大仰に誇張することで、逆に新しい感覚が立ち上がって来ていた。メタ化を極度に施せば、それはパロディに近いものになる。その微妙なバランスをとるのが難しいのだが、今日のお芝居はそれが成功していた。

それに大きな「一役」を買ったのが、茶店の老婆を演じたえくぼさんの功績だろう。この点は大いに強調しておきたい。途中からは暴走状態で、座長も少々持て余し気味。ちょっと「ざまあみろ!」なんて、思ってしまった。完全に座長を喰っていたから。あっぱれ、えくぼさん!今日の舞台で彼女のファンになった人も多かったのでは。『釣り忍』の「本家」の老爺役といい、彼女の喜劇のセンスにはいつも感心する。この劇団の女優陣の充実ぶりは半端ではない。他劇団でえくぼさん、そしてみかさん両名ほどの優れた女優を知らない。別格なのだ。座長のお母さまの「薫陶のほど」がしのばれるではありませんか。

第三部の舞踊ショーで、商店街のママさんの歌やら呉服座社長の女形等、あまり観たくはないものまでみせられて、いささか辟易したものの、この芝居、そして劇団美山の役者たちの奮闘ぶりに、すべてがプラスの方へと転換した。

舞踊ショーでもみかさん、えくぼさん二人の相舞踊が秀逸だった。

こうたさんは最近美空ひばりの歌で踊ることが多い。今日は「芸道一代」と「柔」だった。もうただステキ!のひとこと。「カワイイ!」とおばさまたちの声援のすごかったこと。

そして座長の極めつけ。舞台に上がった着物で踊った「都忘れ」、なんとも色っぽかった。