okamehachimoku review

大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『風の九太郎』都若丸劇団@明生座 11月6日夜の部

このお芝居の主人公、九太郎は大衆演劇定番の任侠ものの、いわゆる「かっこいい」主人公ではありません。ドジで間抜けなやくざ、でもそのドジさがなんとも人間的でカワイイ、そんな男です。そういうアンチ・ヒーローを若丸さんは好んで演じます。どこを切ってもかっこよさが断面に出るに違いない若丸座長。その人がその「現実」を裏切る役を演じてみせます。さりげなく、自然体で。この「ギャップ」に人は惹かれ、何度も観に行く羽目になるのだと納得させられます。

若丸さんが舞台に登場します。そのメイク、出立ちにこの「ギャップ」がサインとして示されて、観客の「期待」にみごとに応えてくれています。一瞬にしてそれを察した観客が、「若チャーン!」と叫びます。この観客とのキャッチボール、何回観ても見応えあります。楽しさが感染します。以下に大まかな筋を。

主人公、九太郎(もちろん座長)は旅をかけるやくざものだが、剣の腕前はからきしダメである。それがある村でその「腕」を見込まれ、村長の依頼を受ける。それは新しくその土地に赴任してきたあこぎな役人を斬ることだった。

 

腕の立たない九太郎は、その役人に殺されるのはまっぴらごめんと夜中に逃げだそうとするが、たぬきの罠を仕掛けていた村の子供(花形の星矢さん、ほんとうに上手い!あまりのオカシサに目が釘づけでした)に捕まってしまう。ここでの両雄(?!)の掛け合いにお客さん大喜び。先日の副座長の剛さんといい星矢さんといい、座長と張り合えるだけの力のある役者さんを擁している強みです。

 

で、居残る羽目になった九太郎、ついに役人と対峙する。当然のことながら、さんざんからかわれた末に退散することになる。それをみていた村人たちは九太郎に見切りをつけて、別の旅人やくざを雇い入れる。しかしそのやくざも見かけ倒しで、役人を前にしていとも簡単に寝返り、さらには村長が一揆を企てていると讒言する。そして役人からは駄賃をせしめて出て行く。一部始終を陰からみていた九太郎、怒ってそのやくざを追いかけて行く。 

 

役人は村長を捉え、縛り首にするといって連れて行く。村へ帰ってきた九太郎。彼らにやくざから取り返した金を返し、その上で役人を追う。役人との一騎打ちになるが、九太郎は歩が悪い。と、そこで(都合よく)彼の払った剣が上に吊るしてあった(コメの入った?)ずた袋を切ってしまう。重い袋は役人の上に落ち、役人は死んでしまう。村人たちがかけつけ、村長ともども九太郎に礼を述べる。

村人という役で劇団員総出演でした。感心したのは、視線が集まらない場面でもどの人も気を抜いていなかったことです。さすがです。そういう劇団員の気の張り方が舞台の質を高めています。そういう劇団は大衆演劇ではここだけでした。主役をはる役者が舞台中央で演技しているとき、他の劇団員は気を抜きまくっていることが多かった。それをみると主役役者がどれほど良い演技をしても、観ている側は白けてしまいます。大衆演劇はそういうものだと諦めかけていたときだけに、都若丸劇団はそれを覆してくれました。

 

舞踊ショーでの焦眉は以下。

まず、座長、女形。白い着物に淵の大きな真っ白の帽子をかぶっての「Dear」(西野カナ)。きれいで、そしてなんとも躍動的でした。

 

座長、立ち、「花」。裾がドレスのように広がった目も覚めるようなブルーの着物で。この曲もところ狭しとまるでバレエのように舞台いっぱいに踊られました。今までみた「花」とはまったく違う、パワフルなものでした。

 

 剛、立ち、「流れて津軽」。背の高さを存分に生かした格好よい、切れ味のよい踊りでした。

 

星矢、立ち、「この世の夢」。この方の踊り(演技も)を表現することばは、「色気」です。生々しい色気が立ちのぼってきます。この日歌われたのですが、音程をまったく外さず、表現力もおみごとでした。

 そして!ラストの「六本木心中」!劇団の十八番のようで、前奏段階から客席はノリノリ。座員総出演、全員黒のピカピカピチピチの上下。激しくロック。上からは猛烈な花吹雪。座長のお父様のキャプテンまでもが黒ルック、バズーカ銃(?)をもって若い舞斗さんと一緒に花吹雪を撃ちまくります。舞台では一糸乱れない舞踊。劇団のイメージが変わりました。興奮のうちに幕。興奮冷めやらないお客さんたちが送り出しでは座長、座員さんを取り囲んで歓声をあげていました。楽しかった!