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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『弥太郎笠』一竜座@浪速クラブ 6月26日夜の部

似たタイトルの芝居を大衆演劇でいくつか観た記憶があるのだが、子母沢寛の原作を基にしたものなのだろうか。個別の内容を思いだせないので、推測にしかすぎないけど。芝居の主旨は、侍でありながらヤクザになった「りゃんこの弥太郎」のイナせなカッコよさを思いっきり誇張して描くこと。もとをただせば旗本直参の家出身の弥太郎。二本差しなので「両刀(りゃんこ)の弥太郎」と呼ばれている。すべての題材は彼のカッコよさを際立たせるためのもの。だから多少の辻褄の合わなさは、彼の「やくざ二本差し」の中に回収されてしまうという仕様。

以下がおおまかな筋。原作とはワキ筋がかなり変えられていた。

武士を嫌ってやくざになった「りゃんこの弥太郎」(竜也)。わらじを脱いでいた上州松井田の宿の親分、今はつむぎ織工場をやっている虎太郎(光志)のもとを旅立とうとしている。なんとか引き止めようとしている虎太郎の娘、お雪。虎太郎は娘の気持ちを察し、将来戻って来てくれるように弥太郎に頼む。引き受ける弥太郎。お雪は自分の簪を旅立つ弥太郎に渡す。

弥太郎が旅立った後、土地の十手預かりの親分、お神楽大八(獅童)が虎太郎の処にやって来て、彼とお雪を斬り捨てた(原作ではお雪は死ななかった)。かねてから工場を乗っ取ろうとしていた大八、弥太郎がいなくなったのを幸いに悪だくみを実行に移したのだ。虎太郎の子分、佐七(龍磨)が駆けつけたとき、虎太郎はすでに死んでいた。虫の息だったお雪から事情を聞いた佐七。弥太郎探しの旅に出ることを決心する。

弥太郎は旅途中で鳥追い女(白龍)につきまとわれている。この二人の掛け合いが面白い。「ごめんね!」という足を使った白龍さんのギャグ。厭がっていた座長も最後は一緒に「ごめんね!」。笑えました。これ、数回あって、息、ぴったりだった!「蛇が睨んだ雨蛙、めったなことで・・・」と逃げる座長ならぬ弥太郎を追っかける鳥追い女。「私巳年よ」と白龍さん。道理で(?)秘められた色香がすごい!

一方、旅途中の佐七は大八に見つかり、あえなく斬り殺されてしまう。ちょうどそこに行きあわせた(この設定、かなりムリがありますが)弥太郎は、佐七から大八によって親分とお雪が殺されたことを知り、復讐に向かう。

大八は浪人侍(龍磨)を用心棒に雇っている。龍磨さん、佐七役で殺されて引っ込んだところを、座長から浪人役で再度「復活」するように言われたとか。大八一味と対峙する弥太郎。なんと(!)用心棒が昔の知り合いだったことに気づく。旧交を温め合う二人。あわてる大八一味だが、結局弥太郎に成敗される。

お雪からもらった簪を頭にさし、再び旅に出ようとする弥太郎。そこに例の鳥追い女が。逃げる弥太郎を鳥追い女が追いかける。

ヤクザ間の抗争、だまし討ち、復讐が軸に展開する物語なのだけど、暗さがほとんどないのは眼目が弥太郎のカッコ良さを描く点にあるからだろう。その軽さ、明るさが一竜座にぴったり。演者たちも十分それを承知で演じるので、楽しい。アドリブ満載。台詞を噛んでも、それもすべて笑いに取り込んでしまう。

こういうお芝居、大阪のお客さんがよろこばないはずはない。客席との阿吽の呼吸の掛け合い。それも日を追う毎にテンポがそしてピッチが上がって行った。最初は手探り状態だったのだろうけど、それを掴んでからはの進展ぶりは、ただおみごととしか言いようがない。3月の明生座(一回しか観ていませんが)と比べると、観客とのキャッチボールがどんどんスムーズになって行っている。

ものすごい勢いで観客の心を掴むのに成功している一竜座。抜きん出て芸達者な竜也座長、白龍さん、そして獅童さん。そこにこれまた上手い中堅の光志さんが加わり、中心メンバーは他劇団とは比べるべくもないくらい充実している。若手の龍磨さん、とくたろうさん、力さんも清新な息吹を芝居、舞踊に吹き込んでいる。こちらも確かな手応え。女性陣は多少手薄だけれど、これから力を付けて行くだろう。路線としてはお芝居は軽めに、舞踊ショーは目一杯充実させるという方針だと思われる。観客をみながら明確に立ち位置を図り、そしてその結果を舞台に反映させてゆく座長。