okamehachimoku review

大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『べらんめえ槍道中』浪花劇団@高槻千鳥劇場 2015年6月21日昼の部

この芝居は近江劇団系列のものなんだろうか。飛龍劇団の芝居との質の近さを感じた。もとの脚本(ホン)があるんだろう。構成がかっちりしている。複雑なのに起承転結に無理がない。ベースは人情劇。そこに笑いの要素が多分に入っている。『へちまの花』などとの共通点が多い。

ポイントのみを要約する。ストーリーを駆動させるのは四つの話。一つ目が女衒に娘を取られた母親の娘争奪戦。二つ目は盗賊を追う役人たちの捕物帳。三つ目が鎗を主家に返すべく旅をしている若侍の宿への逗留。これらをすべて纏める芯になるのが四つ目。母がヤクザものの息子を改心させ、若侍の従者にしようとする奮闘話。もとの芝居はもっと長かったのだろうけど、「人手不足」で端折らなくてはならない箇所もあったよう。舞台は宿屋。三つ巴ならぬ四つ巴の絡み、収集をつけるのにどうするんだろうって心配したのだけど、なんとかオチもつき、しっとりかつほんわかで終わった。めでたし、めでたし。

一つ目の話。女衒に龍子さん、娘をだましとられた母親に成馬さん、娘にここちゃん。二つ目の与力役に蛇々丸さん、同心に勘太郎さんと一心君。三つ目の若侍に三桝ゆたかさん。四つ目の母役にめだかさん、その息子役が新之介さん。

お笑いの部分の充実度がすごかった。まず、めだかさんと新之介さんの応酬。めだか母はなんとか新之介極道息子を改心させて、昔自分が仕えた殿様の子息の道中の鎗持ちをさせたい。反抗しつつも、ついには説得されて若さまに鎗持ちを志願する息子。この二人の会話、楽屋落ちがいっぱいで抱腹絶倒もの。新之介さん、なんと9度の熱があるとか。それでも奮闘。めだかさんも負けていない。真っ赤な着物に派手な簪をさしたおてもやんルック、それにきんきらきんのど派手な杖をもっての大奮闘。それにしても上手い!アドリブ、天才的です。上手いだけではなく、どこかほんわか。お人柄でしょうか。大衆演劇界の女優さんではナンバーワン。

二つ目のお笑いは勘太郎同心と新之介直太郎の「切腹」茶番劇。都々逸を唸る(?)勘太郎さん、お笑いのセンスいい。都々逸を唄うという勘太郎さんの手つきが三味線を持つ手になっていないとみんなからつっこまれても、めげずにがんばる勘太郎同心。後ろで蛇々丸与力も吹いていました。最後には鬘を新之介直太郎に取られる始末。ケッサクでした。かなり時間オーバーになった。でもお客さん大喜び。

おもしろかったのは直太郎が堺の生まれで「商人と侍のハーフ」ってところ。こう書くと面白くもなんともないんですが、劇中ではなんかツボでした。「越えてはいけない垣根を越えて」という母のことばに、「押し入り強盗したんかい」とつっこむ息子。この類いの「ことばの取り違え」遊びがいくつか有り。「豚(の)乳で育てたのでこんな極道な息子になった」という母めだか。これにも吹いた。顔がどれだけ大きいかというネタ応酬中の里見要次郎さん(?)の鬘云々の話もおかしかった。

四つの断片の最後のまとめは、直太郎が亡くなった若様の名代として、主家に鎗を届けるというオチ。人情味たっぷり、お笑いたっぷり、そしてちょっぴり切ないという、大衆演劇王道の芝居だった。こういうのイイですね。浪花劇団の力量が分かる。