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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『春雨傘』都若丸劇団@新開地劇場 4月19日夜の部

先月、羅い舞座京橋でも観たお芝居だった。他劇団でも観たことがある「嫁いびりの姑が改悛する」話。ところが、若丸劇団はそれらとは微妙に違っていた。今までみてきたどの劇団でも、主人公の姑を演じるのは座長。もちろんこの公演でも若丸座長が姑。以下が大まかな筋。

場所は大坂。大店の店先。奉公人たちは噂話に余念がない。主人の母であるご隠居がいかにひどい嫁(御寮さん)いびりをしているかの話している。番頭(城太郎)が出先から戻る。隠居が派手な格好で人目を引くので恥ずかしく、彼女を置いて帰って来たという。噂の御寮さん(ひかる)登場。奉公人たちに奥で休むように言う。

 

そこへ田舎から出て来た御寮さんの父(剛)が登場。剛さんの老人振り、上手い。腰を終始かがめているので、あとで腰に来ないかと心配。訪問の目的が村の神輿の修繕代を娘、お末から借りるためだった。お末は貯めていた小遣いの三両を父に渡し、その晩は泊まって行くように勧める。父は裏から奥の部屋に行く。

 

そこへ隠居(若丸)が帰宅する。花道に登場した途端、くすくす笑いが客席から起きる。着物は地味目だけど、頬には紅をさし、頭には花簪が。それに派手な日傘を持って。誰も出迎えないので、ぶつぶつと文句を言いながら家に上がる。「お末さーん」と数回呼んでも返事がないので、最後は「おすえー!」。御寮さん登場。「すんまへん」と謝る。

 

若丸隠居、「あー、よう喋った」を何回も。それでも気づいてもらえないので、「疲れた上によう喋った。そんならどないなる?」と駄目押し。「喉が渇いたので茶を出せ」という意味とようやく気づく嫁。「遅いことやったら、亀でもします」とイヤミを言う隠居。嫁が出してきた茶のみを覗き込んで、「材木が入っている!」。「お母はん、それは茶柱で、縁起が良いんです」と嫁。「そんなん分かってますがな。何年生きていると思ってまんねん。この大きな茶柱がワテの喉に突き刺さったらどうなります。そればかりか育ってきたらどうすんねん」と姑。場内大爆笑。

 

今度は「あっちこっち痛いわ」と宣う姑。あんまをしろという意味と気づいた嫁が姑の後ろに回って肩を揉む。「なにやってまんねん、もっと力入れて!」と怒る姑。嫁が力を入れてもむと、「痛たたた!。あんたうちを殺す気か!」と嫁を突き飛ばす。「ゆるすぎるか、きつすぎるか、あんたには中間というものがないんか。一体どういう躾をされてきたんです」と追い打ちをかける。

 

そこへたまりかねて嫁の父が出て来る。その父に向かって「どういう躾してきたんだす」と言い募る姑。それに対して、「今日という今日は言わせてもらいます。なんもお末が自分から望んでこの家に嫁いできたんと違います」と返す父。「そんならなにか、孝太郎の片思いか。ちがうやろ、この人(嫁)が色目を使ったんやろ」。さらに父に向かって、「そや、なんであんたがここにいますんや。ははー、ワテの留守を狙って、金の無心にきたやろ」。ぎくっとたじろぐ父。それを見逃さず、「油虫のぶっかえり」だの「トウモロコシの食い残し」だのさらに言いたい放題。父も負けていない。「ちょうちんババア、派手な簪さして」と言い返す。「好きなもんつけて、どこが悪い」と言う姑に父、「あんさんには、枯れススキのかんざしが似おうている」。

 

フラストレーションが双方ピークに達したところで姑、「そんじゃ、マッチするか?」。臨戦態勢に入った姑のサマをみて、「それが女の肩幅か」。ここオカシクて笑いすぎてしまった。苦しかった。改めて見ると、あの美しい女形舞踊の麗しき美女のお姿はどこへやら、たしかに肩幅は女性というには幅広。

 

そこへ一家の主人、孝太郎(舞斗)が奥から出てくる。その息子に向かって、「怖かった、犯されるところだった」とすがりつく姑。ここでも大爆笑。「ひどい目に合った」と嘘泣きをする姑を持て余し気味の孝太郎。母を連れて奥に引っ込む。

 

店先には番頭と手代(星矢)が残される。二人の懸念は御寮さんが隠居の苛めで店を出てしまうこと。そうなったら、御寮さんでもっているこの店をたたむことになってしまう。なんとか策はないかと相談。丹後の山奥にいる隠居の父母が死んだことにしようという。そうしたら隠居が丹波に帰る。さすれば道中、谷底に落ちて死ぬか、イノシシ、熊に襲われる可能性が高いというのだ。そこで隠居の父親が死んだことすると決める。二人は「大変でっせ!」と隠居を呼ぶ。出てきた隠居に、「お父はんが死にはりました」と告げる。慌てる隠居。出かけようとした丁度そのときに、(タイミングよく)飛脚が手紙を届けに来る。受け取って読む隠居。読み終わってジロリと番頭、手代を睨む。「お父はん元気やと、おかあはんが書いて来てます。あれは嘘か」。「ははあ、あんたらもお末の側に付いたナ」と怒る。そして奥に引っ込む。

 

出てきたのをみると、背中にふろしき包みを背負っている。「どうされるんですか」と糺す二人に「わては出て行きます!」と花道の方へ。「どこへ!」と二人。「スンガポールヘ」。大爆笑。番頭が奥へ向かって、「ご隠居はんが出て行かれます」と声をかけたので、みんなが出て来る。出て行く隠居の背に向かって奉公人たち、「蛍の光」の合唱。次には「オリンピック音頭」の合唱。最後は「出て行け!」の大合唱。

 

そこへ御寮さんが飛び出して来る。「お母はん、出て行くんやったら私が出て行きます」と姑を止める。すると姑、勝ち誇って、「そうだすか。どうぞ」と言う。この憎たらしさ、秀逸。出てきた孝太郎に向かって、「お末さんは、出て行くそうです」と告げる。

 

オモウツボの隠居が奥に引っ込んだあと、孝太郎、お末が残される。「あのお母さんや、お前も身体をこわしてしまうかもしれん。しばらく里へ帰っていてくれ」と言う孝太郎。「お母はんをなんとか説得して、田舎へ迎えに行く」と約束。それを聞いてお末も涙ながらに喜ぶ。「必ず迎えに来て下さいね」。陰に隠れて様子をみていた父が出て来る。「私がつれて帰ります。必ず迎えに来てやって下さい」。

 

涙ながらに父と帰ってゆく御寮さん。そこへ雨が。奥に向かって孝太郎、「番頭はん、傘を」。二人が相合い傘で退場しようとしたところに、奥から隠居が駈け出て来る。

 

「お末さん 堪忍や!」と謝る。「息子を嫁にとられて、淋しかった、だから意地悪をした」と謝る。すると番頭、「そんなに淋しいんでしたら、ええヒトおまっせ!」。「えっ?」と驚く隠居に、御寮さんの父の方を指す。恥ずかしがる若丸隠居。とまどっている剛父。オカシイ!

 

いままでとは打って変わって恥ずかしがる隠居。恥じらう姿がかわいらしい。そして、「あんまり暴れたから化粧がとれた。ここでやり直す」と、向こう向きになって化粧を始める。しばしの間があり、「お待たせしました」と、こちらを向く。京橋のときは「真っ赤っかタラコ唇」仕様だったが、この日は「歌舞伎調」化粧。いずれにしてもヘンテコメイク。「怯える」剛さんに抱きつく若丸さんで幕。

抱腹絶倒喜劇だった。