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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『涙の江戸見物』都若丸劇団@花園会館 1月13日昼の部

去年三吉演芸場でも観たお芝居。そのときのレポ中にお芝居のプロットをまったく書いていなかったので、(改めて?)アップする。去年と同様、葵好太郎座長を迎えてのものだった。

岩五郎(好太郎)は腕もよく、人格者で通っている大工の棟梁。その女房のおとよ(ゆかり)も気だてがよく、大工の弟子達の面倒見もよい。二階に弟子のちょっと足らない三ちゃんを(若丸)下宿させ、世話までしている。

岩五郎と三ちゃんの会話で始まるのだけど、このやり取りにうなってしまった。以前に観たときより、長く、より手のこんだキャッチボール。二人とも江戸っ子という設定での会話。(以前観た折のお芝居中、大阪弁で苦戦した)好太郎さん、今回は水を得た魚のよう。スムーズに流れる出る江戸ことば。対する若丸さんはそれを外す役目。こちらももちろん江戸弁なんでしょうが、間の取り方が東京のものではない。テンポの緩急の「緩」の部分が絶妙。これは関西のものですよね。

お酒を飲んでも良いといわれた三ちゃん、奥に引っ込んで出て来たと思ったら、真っ赤な顔。足取りもおぼつかなく酔っぱらっている。棟梁が「一本ならいい」と言ったのを、酒瓶全部を飲み干してしまっていた。酔っぱらっていながらも、外に出たくて仕方のない三ちゃん、踊りのお師匠さんのところへ行くと言う。もう一年も習っているんだとか。踊ってみろと棟梁に云われ、盆踊り風のものを踊る。この踊りの箇所が三吉の時よりいささか長く、見せ(魅せ)場になっています。歌も歌ってみせるんですが、客に気をもたせ、手拍子までさせながらも、なかなか始まらない。ずっこけました。「酔った状態」を保持するのは難しいはずですが、若丸座長、終始狂いがなかった。計算の正確さ、自身を視る客観性が際立っています。

三ちゃんが出た後、棟梁はおとよに、「踊りの師匠のところに菓子折をもって行き、三ちゃんがかけている迷惑を謝って来い」という。そこへ老人が訪ねてくる。その人は棟梁の前の女房、およしの父(城太郎)だった。およしは岩五郎が長い留守をしている間に男と夜逃げしていた。それも岩五郎の金庫をもって。岩五郎は再婚したのだが、その一連の経緯をおよしの両親は知らない。何も知らない父は、収穫が一段落したので、(上州から)江戸見物にやって来たのだという。で、おとよを女中と間違える。困った岩五郎、おとよは二階の下宿人の妻で、およしは上方へお産に帰った友人の手伝いに行っているのだと言い繕う。納得する父。父が奥に入ったあと、岩五郎はおとよに謝る。二人で布団を調達しに出かけることにする。

三ちゃんが帰って来る。奥から岩五郎の義理の父が出て来る。知らないもの同士。二人のにらみ合いが笑わせます。ここの阿吽の呼吸はさすが親子。三ちゃんが棟梁の女房を褒めるのを聴き、すっかり気をよくしている父。すらすらと棟梁の前の女房の出奔経緯を喋っている三ちゃんのことばに、ときどき不審顔の父。そしてついに!棟梁とおとよが心配していた事態になる。「その逃げた前の女房の名は?」と尋ねた父に三ちゃん答えて曰く、「およし」。すべてを理解する父。三ちゃんは自分が大失敗をしたのに気づく。戸口から逃げ出そうとする三ちゃんを止める父。このやりとりも、絶妙。三ちゃんはほうほうの態で逃げ出す。

自分の娘がこんなに迷惑をかけてしまった以上、ここには居れないと帰ろうとする父。そこへ岩五郎とおとよが帰宅する。面目ないと謝る父。帰り支度をする父に、岩五郎は「おとよが逃げた男というのはやくざものです。いつ捨てられるかも分からない。帰るとしたら親のところしかない。そのときには迎えてやって下さい」とことばをかける。

父は持って来た荷物を開いて、着物を取り出す。娘に持ってきたのだけど、もういないので、代わりに着てくださいと、ゆかりさんにそれを着せ掛ける。ここでのゆかりさんの間の取り方、すごかった。もう絶品。涙が溢れた。着せかけた父も泣いている。「あんたが娘だったら」と。