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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『芸者の誠』都若丸劇団@新開地劇場4月21日昼の部

このお芝居は都若丸劇団では初見。他劇団では観たことがある。ただ、若丸バージョンに大幅書き替えられていた。抱腹絶倒喜劇である点では他劇団と同じ。ただ、若丸バージョンの方がリーズニングがかっちりしていた。以下に大まかな筋を。

三人の不良浪人(剛、星矢、あきら)に絡まれていたところを、芸者の玉菊(ひかる)に助けられた若い男、与吉(若丸)。芸者が彼のために金を浪人達に渡したのだ。与吉は江戸で大工見習いをしていたのだが、帰郷するところだった。この場面が他劇団との違い。他劇団では芸者と馴染みの大店の手代という設定だった。売れっ子一流芸者と手代が馴染みになるなんて、当時の社会では考えられない。というわけで、若丸バージョンの方が無理がない。

 

芸者玉菊に惚れ込んだ与吉、芸者が入った料亭で芸者遊びをする決心をする。しばしののち料亭から出てきた与吉、郷里の父母に渡すつもりで貯めた金をすっかりその「遊び」で使い果たしたことに気づき、愕然とする。そこへ玉菊が出てきて、彼に金を渡す。彼女はすべてお見通しだったのだ。礼を言って去ろうとする与吉に、妻にして欲しいとまで言う。初めは信じない与吉だが、芸者の真心に動かされ、信用する。玉菊は年季のあける一年先まで待ってくれという。喜び勇んで帰って行く男。

 

一年後、一人のおこも(ゆかり)が今や大工棟梁になった与吉のもとへ訪ねてくる。ここでのゆかりさんの名演技、初見の私はただただ呆然。ものすごい外見。ここまでやるかというほどのモウレツご面相に衣服。役者魂全開。与吉はちょうど外出中で、父(城太郎)が応対する。そのおこもは自分こそが玉菊だと名乗る。ここのあたり、シモネタもあり笑いが止まらないところ。ゆかりさん、あっぱれです。もうひたすら尊敬!他の人を完全に喰っていた。父は梅毒にかかって面貌まで変ってしまったこの「元芸者」と息子とは夫婦にさせられないと、「息子は亡くなった」と嘘をつき、追い返そうとする。健気にも「墓はどこか」と尋ねるおこも。「あんたは字が読めますか」と聞く父に、「読めません」。埋葬された寺を聞いたおこも、早速墓参りにと寺を目指す。

 

さる寺。舞台真ん中に「与作(与吉ではない)の墓」とかかれた墓石。ここで再び若丸さん登場。なんと寺の住職役!坊主頭に袈裟姿のナマクサ坊主役がぴったりと嵌っていて、これだけでも笑いがしばし止まらない。ここからの若丸 VS ゆかりのバトルが見物です。どこまでがきちんと設定された台詞なのか、どれがアドリブなのか、ホント判断が難しい。二人の応酬(キャッチボール)が凄まじいし素晴らしい。今まで見逃していたのが残念。若丸さんにあれほど「イジメラレタ」ゆかりさんの体が心配になりました。演技とはいえ、捨て身のもので、これを昼夜二回演るなんて、信じられない。ゆかりさん、あなたはスゴイ!この寺の場も他劇団にはないもの。

 

住職は墓が与吉のものならぬ「与作」のものだとおこもに告げる。驚くおこも。与吉の家へ取って帰ろうとする。そこへ登場したのが玉菊。与吉とその父が彼女の訪問をどう判断するか心配だったので、おこもに一芝居打ってもらったのだ。

 

帰宅して、父から玉菊がみるも無惨なおこもになっていると聞かされた与吉。父が止めるのを振り切り、急いで寺を訪ねて行く。与吉をみたおこも、「色々な客を取ったので病に懸り、こんな有様になってしまった」と嘆く。それならば一緒に死のうと、紐をだす与吉。与吉の意図に気づいたおこもはなんとか逃げようとする。そこへ本物の玉菊登場。おこもに一芝居打ってもらったのだと、与吉に告げる。安心する与吉。そこへ与吉の父がやってくる。美しい芸者が玉菊と知って安堵。二人の結婚を許す。

徹底して自身のものに創り上げるという若丸魂。明日のゲストを迎えての『刺青奇偶』はどうなんだろう。「三河家諒バージョン」は以前に伍代孝雄劇壇で二回観ている。シネマ歌舞伎になった勘三郎玉三郎版を観たかったのに、機会を逸している。ただ「三河家バージョン」は何度も観る気にはあまりなれない。重々しく、悲劇っぽくするのは長谷川伸の原作を誤解していると思う。演じる役と自身との間に醒めた目を介在させなくてはならないけど、諒さんのはウエットすぎる気がした。「悲劇的」に演じる方が、ずっとやりやすいに決まっている。玉三郎はきっとそんな安っぽい手を使っていないに違いない。私としては若丸/ゆかりの組み合わせで観たかった。