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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『必殺仕事人』都若丸劇団@朝日劇場6月9日昼の部

去年、京橋劇場でのLINKの公演でも同タイトルのお芝居をみた。ただし話の中身はまったく違った。こちらの方がずっと構成が緻密だった。だから、芝居の「見せ場」が計算されて提示できたのだろう。この「必殺」シリーズは「見せ場をいくつ作ってなんぼ」という世界だから。以下が大筋。

裕福な商家「近江屋」の主人(虎徹)は実の甥の山城屋安二郎(秀樹)には身代を譲るつもりはない。彼を信用していないから。この主人役の虎徹さん、滅法うまかった!彼の別の側面を見た気がした。安二郎は山城屋という分家をしてもらっているのに、それでは不足で、その上叔父が、昔女中奉公をしていたおえん(ゆかり)の娘、おみよ(ゆきか)を養女にする積もりだとわかると、企みを思いつく。それは叔父を殺し、その犯人におえんを仕立てることだった。

 

それに加勢したのが筆頭与力(城太郎)の一味。役人であることを隠れ蓑にあくどい仕業を重ねる許し難い役人である。中村主水(若丸)はそのワル与力に仕える同心にすぎない。なにかというと「のろま、ぐず、役立たず」と罵られ、「牢番に位落ちさせる」という脅迫に一喜一憂するありさま。

 

満開の桜の下、見回りに「精をだしている」主水だが、そこに彼の上司、筆頭同心の田中(舞斗)がやってきて、いつもながらに主水を罵ってゆく。このときの舞斗さんの演技、なかなかのものでした。先ほどの虎徹さんといい、舞斗さんといい、都若丸劇団の若手たちは他劇団の座長、副座長級の演技力があります。これが芝居、舞踊のレベルの高さに直結してるんですね。

 

その情けない主水の様子を陰でみていた彼の仕事人仲間、錺職人の秀(星矢)と三味線弾きの勇次(剛)、「八丁堀(主水のこと、当時八丁堀には同心たちの宿舎があったことに因んで)」相変わらずだな」といって、主水をからかう。仕事がなくて三人とも文無しを託っている。

 

場は変って、おえん(ゆかり)とお美代(ゆきか)の親娘連れ。今から養子縁組の返事をしに「近江屋」に行くところ。お加代(ひかる)と出くわす。まだ迷っているおえんに、お加代は同じ長屋には自分がいるので、淋しく思う必要ないと励ます。近江屋では主人が玄関先まで出迎えてくれて、二人の来訪を喜ぶ。昔近江屋で女中奉公をしていたおえんに、「お美代と一緒にこの家に住むように」とまでいってくれたので、おえんは安心する。お美代を先に家に帰し、自分は用事を済ませてここに立ち寄るといったお加代を待つという。一部始終を物陰から聞いていた山城屋安二郎。ある計画を思いつく。近江屋を誘き出し、殺してその罪をおえんになすり付けようというのだ。

 

人気のない道をやってきた近江屋の主人と女中(京香)。二人を侍の一団が襲い斬り殺す。それは安二郎と組んだ筆頭与力、景山(城太郎)とその手下の同心たち(佐助、あきら)だった。そこにこれまた偽の呼び出しで誘き出されたおえんがやってくる。近江屋の亡骸をみつけ、泣きすがりながらそこに落ちていた短刀を拾い上げる。偶然やって来た風を装った景山一味と安二郎が、「お前がやったのだろう。手に持っている短刀が証拠だ」という。そして、騒ぎを聞きつけてやってきた主水に近江屋の死骸を片付けておくよう命令し、おえんを奉行所まで連れて行く。

 

なにか腑に落ちない様子の主水。そこにお加代がやってくる。近江屋の死骸とおえんが連れて行かれたことを聞き、おえんが近江屋を殺す筈がない。彼女は嵌められたのだと訴える。死骸を調べろというお加代の頼みで、あらためる。「傷は二つ。「背中に負った袈裟斬りと腹に刺さった切り傷だ。袈裟の方は侍、もう一方の傷は素人」と主水が云うのを聞いたお加代、なんとかおえんの冤罪を晴らすようにさらに主水に頼む。秀、勇次もやってくる。三人におえんの冤罪を晴らすように頼み込むが、三人とも首を縦に振らない。

 

場は変って奉行所。「自分が殺りました」と吐けと拷問を受けるおえん。それでも「やっていない」と訴え続ける。そこにお美代がやって来ているという連絡が入る。「お美代に会わせてくれ」と必死で頼むおえん。それを聞いた景山、安二郎に「本当に殺すところを見たのか」と尋ねる。これはすべてお芝居で、一端おえんを安心させて、帰宅しようとしたところを斬り殺すというものだった。

 

そして言訳には「逃げ出そうとしたので殺した」ということにする。計略通り斬られるおえん。このときのゆかりさんの演技、特筆ものでした。大衆演劇っぽくもなく、新派風でもなく、なにか洗練された現代劇を見ている感じ。

 

そこに「話があります」と主水がやってくる。山城屋の傷に不審な点があると景山に告げる。またもや「要らない詮索をすると格下げにする」と脅して、おえんの死骸を始末するように言い渡し、その場を去る景山と手下。安二郎を見咎める主水。この二人の息詰る視線の応酬。若丸さんはもちろんのこと、安二郎役の秀樹さんの演技も秀逸。 

 

おえんを起こすとまだ息があった。彼女からことの始終を聞き出した主水。「戸板をもってこい」という様子に、景山に対する怒りが滲み出ていました。

ここまでの流れ、非常に上手く出来ていました。話のつじつまの整合性、脚本の緻密な構成、すごいです。その上、それぞれの登場人物の心理にまで踏込んだ描写力にも脱帽です。脚本に加えて、そこまでの演技ができる役者がそろっているからでしょう。

最後の場。背景は神社の杜。舞台真ん中に大きな杉の樹が立っている。右手には神社へと繋がる小道がしつらえられていて、その脇には竹薮。第二場の満開の桜の背景にも驚きましたが、舞台背景等の装置では朝日がナンバーワンだと思い知った瞬間です。大道具も完璧に整えられていました。これだと大舞台と変らない。大衆演劇でここまでやるのはコスパの点でも信じ難い。すごいです。もう一つ、若丸さんと座員さんたちもそれに負けない、そしてそれを活かしきった舞台を務めています。これもすごい!

歌舞伎顔負けの背景を背に立つのが仕事人の四人。舞台上手より勇次、主水、お加代、秀。お加代は他の三人におえんの仇を討つように頼む。自分がその代金を出すというが、他の三人はそれではルール違反だと抵抗する。そこにお美代がやってきて、お加代に金を渡す(この紙に包んだお金は、近江屋が彼女に「小遣い」といって渡したもの。どこまでも芸が細かい!)。これで主水、勇次、秀も景山一味を討つことに同意する。

ここからが「仕事人」十八番の、そして観客お待ちかねの場面。

誘き出された安二郎とその愛人おりき(はるか)がやってくる。おりきを錺で殺したのは秀。安二郎を三味線の糸で殺したのは勇次。これはホント、いちばんの見せ場でしょうね。見ている側の快感がびんびん伝わってきました。ひょっとしたら演じている側も?

最後は決め!これまた呼び出された景山と一味の同心たち。顔下半分を隠して神社の杜の背後、小高くなった木陰から主水が登場。何者かと問う景山に、覆面をとって、「仕事人が誰なのか判った」と告げる。それは誰だと聞き返す景山に「われこそそれなり」と名乗る主水(カッコいい!)。ここからがお決まりの殺陣。あっさりと三人を斬り捨てる。最後は仕事人四人全員が舞台にうちそろって幕。