okamehachimoku review

大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

華麗で内容の濃い舞踊ショー「劇団あやめ」@三和劇場 5月21日昼の部

他の人気劇団のように照明に凝りまくるというのではないのに、とにかく華麗な舞踊のオンパレード!実に充実したショーを魅せてくれる。それというのも、一人一人の舞踊の内容そのものが「濃い」から。1月から入った新人のウランさんを入れても総勢がたった六人。他に投光係がいるわけでも、楽屋での裏方さんがいるわけでもない。正味の六人。手が空いた座員が投光を受け持っている。それなのにこの充実度。頭が下がる。

大衆演劇が照明や凝った群舞構成で、まるで宝塚レビューのような派手な見せ方をするようになってきている。とくにトップ人気劇団で、それは顕著である。それはそれで素敵ではあるのだけれど、どこかで飽きられるようになるのではと、感じていた。何かが足らないと感じていた。現に私は飽きた。

そういう境地で出会った姫猿之助座長率いる「劇団あやめ」の舞踊ショーは、衝撃だった。「そうか、こうくるか!」と膝を打った。とにかく工夫がすごい。ちょうど三代目猿之助が「旧歌舞伎」と袂を分かって「スーパー歌舞伎」を立ち上げたように、今までの(旧)大衆演劇から分岐、「ネオ大衆演劇」を創り上げるという志を感じた。とはいえ、大衆演劇の精神が忘れ去られたわけではない。むしろ、より深められているのは、歌舞伎を脱構築した上で新しい趣向で深化させた「スーパー歌舞伎」と共通している。もちろん、まだまだ荒削りなところがある。歌舞伎のように長い時間を稽古に費やすことができないから、当然である。でもそれこそが、大衆演劇というか旅芝居たる所以でもあるとも思う。それならば、それを逆手にとって、魅力にしてしまう。そういう気概も感じられる。志という点では、現状にあぐらをかきがちな歌舞伎、歌舞伎役者より、数等上である。もっとも歌舞伎も近年、新しい趣向での新世界構築を図る幸四郎猿之助とそれに続く若手役者が出てきてはいるのだけれど。

最近のネオ歌舞伎の隆盛を見ていると、新しい工夫のない大衆演劇劇団は、現状維持どころか先細りになると危惧していた。そんな心配をするのは差し出がましいし、おこがましいと分かっていたので、もう気を入れて見ることはないだろうと思っていた。

だから、「劇団あやめ」は衝撃だった。ただ、残念なことに従来の大衆演劇の客が求めているものとはかなりズレがあるので、集客は思ったほど伸びていない。先に行きすぎているのだと思う。普通の大衆演劇客の「期待の地平」とのギャップもあるかもしれない。「進化系(型)」が時代に受け入れられないのは世の常だから。でも必ずや、彼らの時代が来ると思う。

本日、すべて例外なく素晴らしかった舞踊ショーの舞踊中、とくに秀逸だったものを何点か挙げてみる。

咲之阿国 (女形)「惚れたが悪いか」から「惚れ神」

 黒地の本振袖にゴールドの帯、ショールを持って。悪女全開。

 

初音きらら (立ち)「男の海峡」から「女ソーラン祭り」

 白っぽい地に赤、橙の炎模様の入った派手な着物で。長い棒の捌き方が見事。

 回転、バク転と、身体機能がすごい。

 

猿之助 (女形) 「硝子の海峡」
 猿之助さんは茶地の着物がお好きなよう。扇子もそれに合わせて。

 

ひよこ (立ち) 「怪傑児雷也

 鬘、衣装共に児雷也の扮装で。ひよこさんの「カブキ」はワクワクする!

 先日の第4部舞踊ショーでの「オール歌舞伎ショー」では「暫」の扮装が板についていた。広げた袖にはきっちり成田屋の三桝紋が入っていて、念の入れ方に感心した。児雷也とドクロ怪獣との闘いを見せてくれた。なんか、おかしい。

 

猿之助阿国 「紅花」

 美男美女。色っぽく、艶やかだった。

 

阿国+ひよこ+きらら 「孔雀舞」

 華麗な舞。最後舞台に残った阿国さんの人形振りが素敵。今までにいやというほど大衆演劇で人形振りを見てきたけれど、彼女が一番。

 

きらら (立ち) 「今夜また逢いに行く」

 ガウンの下はスケスケの着物姿。清々しい色気(自家撞着ですが)。肩からガウンが滑り落ちると、ゾクッとするんですけどね。頭には自由女神の冠?

 

阿国 「お徳」

 もちろん、『残菊物語』のお徳。ストーリーを演じる物語舞踊(あれ、なんていうんでしょうか?)。悲劇が立ち上がってきました。

 

ラスト舞踊 「桜島

 西南戦争西郷隆盛に扮した座長と同士に扮した座員さんたち。血だらけの剣舞ならぬ剣劇を魅せてくれた。座長の心意気が溢れていた!

 今年の大阪公演は今月が最後らしい。関西では再来月に泉佐野の「がんこ座」にかかる。大きな劇場公演がないのが残念である。