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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『幡随院長兵衛』三河家桃太郎劇団 四代目三河家桃太郎追悼公演DVD 

今年の2月16日の公演をDVDにしたものを、先日三河家劇団を観劇した際に買い求めました。

2日間に渡る公演で、DVDも2種類いあったのだけど、もちろん春之丞さん、そして伍代孝雄さんの入っている方を迷わず選びました。

春之丞さん、黒い皮コートを羽織って客席を歩いて出てこられたのですが、「春之丞!」、「春ちゃん!」の嬌声、すごかったです。それにコートを触るお客さんもいて、大騒ぎでした。客席を歩いてでてこられるというの、新開地でも何度もみましたが、同じでした。ズーと歩いてこられて、途中でちょっととまって客席をご覧になり、にこっと笑われてそして今度は舞台すぐ下を通って違う列にも行かれるというやり方です。観客サービスが群を抜いています。

伍代孝雄さんの舞踊も新開地でみたときの雰囲気がそのままでした。立ちだったのですが、裾を払うやり方、ちょっと裾をからげるやり方、同じでした。孝雄さんはこのときの呼吸が、間のとり方が秀逸なんですよね。男気を、そして男の色気を感じるのです。

あと「ステキ!」と思ったのが、愛京花さんの踊りでした。春爛漫の色気でした。明生座で見たときにもそれに圧倒されましたが、女性の踊りというよりも両性具有的な要素を多分に含んだものでした。きちんと境界わけできない危なっかしさが、そのままスリリングな振り、身体の線になっているのです。曲は「朝日のあたる家」でした。ニューオーリンズの娼婦の歌で、「朝日のあたる家」とは娼婦館のことで、浅川マキが訳詩したということになっています。でも以前調べたら英語の歌詞では娼婦の歌ではなく、男の犯罪者が捕まって郷里に護送されたときの歌だったように記憶しています。でも娼婦の歌といったほうが、京花さんの踊りにぴったりでした。人生に倦んだ女の頽廃と絶望を雄弁に表現されていました。

あと、恋川純くんが「昴」を踊りました。これはダイナミックで若さ全開、ステキでした。

三河さんの河内音頭、これまたパワー全開で、芸の極みを軽快に魅せていただきました。

お芝居ですが、なんと『幡随院長兵衛』でした。この芝居は歌舞伎で1994年に一回観たきりです。そのとき長兵衛に最晩年の萬屋錦之助さん、水野十郎左衛門に片岡孝夫さんという配役でした。身体もかなりお悪かったのでしょう、錦之助さん、やせて弱々しい印象は否めませんでした。でも良く通る声は力強いものでした。湯殿の立ち回りも豪快でした。

三河家桃太郎さんがもちろん長兵衛です。巧いですね!湯殿の場面も迫力満点でした。民から慕われる長兵衛の器量、度量を表現するのに、桃太郎さんはあまりにもぴったりのはまり役でした。

春之丞さん、孝雄さん、純さん、みなさん長兵衛の子分という役柄でした。春之丞さん、孝雄さん、声が歌舞伎でした。お二人のお芝居を観るたびにその発声の奥行きに驚かされますが、こういうところにもはっきりと顕われています。桃太郎さんだけではなく、このお二人も芦屋歌舞伎の流れを汲んでおられるのでしょうね。ナットク。