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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『おとめ与三郎』劇団花吹雪@新開地劇場2010年11月7日

昼の部を劇場で観ました。でもあまりにもすばらしい舞台でしたので「もう一度見たい」、そう思っていたら、劇団からDVDが出たので、早速買い求めました。一応簡単なレポは以前にしましたが、以下はDVDを見ながら、そして当日の舞台を反芻しながらのレポートです。

お芝居は悲劇・喜劇の二本立てでした。悲劇の方は『星の三度笠』で、喜劇の方が『お富与三郎』でした。どちらも主演は春之丞さんで、大活躍でした。ここでは喜劇の方をとりあげます。DVDだけでも3回見ましたが、何度見ても新鮮で、そのたび笑い転げています。

『おとめ与三郎』は「切られ与三」として知られているあの有名な歌舞伎世話物狂言のパロディです。この狂言は「玄治店」の一幕でもしられていますが、正式名は『与話情浮名横櫛』で、作者は瀬川如皐、初演は1853年です。

ただし、この日の『お富与三郎』は「切られ与三郎」のほうではなく、黙阿弥がそれのパロディとして書いた「切られお富」の方です。この正式名は『処女翫浮名横櫛』で、与三郎ではなくお富の方が顔、身体に傷跡をつけているという逆の設定になっています。

また、今気がついたのですが、11月7日(日)のこの日の狂言『おとめ与三郎』と翌週11月14日(日)の『踏切番』が「おとめ与三郎」を軸にして対になっているのです。『踏切番』(現代劇)のほうは『与話情浮名横櫛』、つまり「切られ与三」の方が下敷きになっています。春之丞さんはかなりの歌舞伎通です。こういう玄人はだしの戦略を立てられているのです。しかもあざとくありません。これこそ日本の文芸の心意気ですよ!けっして見せびらかさないのです。また、「切られ与三」のパロディの「切られお富」をまたパロディとし、おまけに「切られ与三郎」のパロディを現代劇にして一週間後にみせるなんて!うがった工夫だと思いませんか。これこそ歌舞伎だ!歌舞伎精神だ!と感激しています。

さて、『おとめ与三郎』ですが、同じ題材のものを他劇団(浪速劇団、筑紫桃太郎一座)でもみたことがあります。花吹雪のものがいちばんぶっとんでいました。なにしろ春之丞さんのメーク、ビックリマークが十ほどもつくシロモノでした。ここで写真をおみせできないのが残念です。

話のあらすじは以下です。

江戸に奉公に来ていた上方の大店の跡取り息子与三郎(真之輔さん)が、集金の帰りに50両も掏られてしまい、身投げしようとしたところをなじみの芸者、お富(かおりさん)に救われます。お富の年季があける三年後に一緒になるという約束を交わして、与三郎は上方に帰ります。三年が経ちますが、その間お富からは音信がありません。でも与三郎は両親(英二さんと京之介さん)の進める縁談を断り、お富を待っています。

お富は与三郎が心変わりをしているかどうかを確かめるため、なじみの幇間愛之助さん)を与三郎のところに探りに遣ります。幇間は一計を案じ、与三郎の近隣の村に住むおとめという梅毒病みの売春婦(春之丞さん)を「お富」だといって与三郎の許に送り、果たして与三郎が心変わりをしていないかを確かめようとします。このときの春之丞さんの(梅毒で鼻がもげているということになっているため)「ふぐぁ、ふぐぁ」のおしゃべり、抱腹絶倒ものです。喜劇ばかりは実際に観るに限りますね。どうこっけいなのかを説明するのは難しい。ぜひDVDをお買い求めください。そして劇場に足を運んでごらんになってください。

真之輔さんの若旦那、堂にいっています。与三郎のお母さん(お父さん)の京之介さんのアドリブをかわしつつ、由緒正しい上方弁での台詞回し、カッコいいです。

京之介さん、ものすごくお上手だというのが、音に集中してDVDを聴いてみてよく分かりました。舞台では「手抜き」に見えていたのに(スミマセン)、実際は、しめるべきところはきちんとしめられているのです。スゴイ役者さんだという評判は本当でした。彼と息子の真之輔さんとの絡みでも、甥の春之丞さんとの絡みでも、ちらちらと彼の本音が出て、面白いと同時に、大変だナーとも感じました。

第3部の舞踊ショーも改めてみると、圧巻のひとことです。群舞、そして春之丞さん、真之輔さんの舞踊は歌舞伎(傾奇)ということを強く打ち出した選曲になっています。『傾奇者恋歌』、『夜叉のように』、『よっしゃあ漢歌』とかで、こういう風にテーマを決めてショー構成をしているのは珍しいと思います。春之丞さんのアイデア創出力にあらためて感服します。頭のよい、アンテナをしっかりはった、そして「客第一」を実践されている素晴らしい役者さんです。