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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『男の人生』劇団花吹雪@新開地劇場 2010年11月29日

今日は昼から会議が入ったので勤務先に来ています。千秋楽、行けなくなってしまいました。心残りですが、1月が八尾グランドホテルなので、その折の楽しみに取っておきます。でも今日の春之丞さん女形の喜劇、観たかった!思いっきり笑って厄払いできたでしょうに。

上方の劇団の強みはなんといってもお笑いですよね。たぶん関西人は身体のなかにそういうエッセンスがつまっているのでしょう。藤山寛美は出るぺくして出てきたのです。松竹新喜劇も上方のお笑いの伝統の上にあるのだと思います。生真面目な私でも、東京の友人たちと話していると、ときどきつっこみたくなってしまいます。彼らの話はつっこみどころ満載なんです。一度やってしまって、きょとんとされたことがありました。それ以来自粛です。つれあいは大阪出身なので、この点が楽です。ぼけと突っ込みの間合いが分かっていますから。

花吹雪の主要メンバー、春之丞さん、真之輔さん、愛之介さん、それに座長、京之介さん、元(?)座長寿美さん、皆さん笑いのツボを心得ておられます。おかしい!上手い!笑いは間のとりかたが大切ですが、みなさんそれを心得ておられて、絶妙な間のとり方をされます。シブい!

ということなんですが、私が今日語りたいのは喜劇の方ではなくて、悲劇の方です。昨日の『三本の矢』、それに一昨日の『男の人生』、どちらも不条理劇でした。ハッピーエンドではありません。理不尽な終わり方です。楽しみたいと期待して来ている観客なら、がっかりするかもしれません。大衆演劇の枠を超えている、つまり一般受けするとは思えない内容だったのです。驚きました。こういう不条理劇は金沢つよしさんの劇団でも観たことがあります。最近では小泉たつみさんのところで、一昨日の『男の人生』とよく似たものが上演されました。こいう演劇を上演するという伝統を守っているのは、すばらしいことです。

大衆演劇は台本がなく口立てで稽古されるとのことですが、そういう場合でもきちんと伝統を受け継がれて、変な迎合はしないということなんですね。一昨日のお芝居『男の人生』の筋書きは以下です。

 卯之吉(名前は間違っているかもしれません。春之丞さん)はヤクザ一家の代貸しだが、彼に目をかけていた親分が亡くなってしまう。二代目を継いだ同輩(京之介さん)、それにもう一人の同輩(寿美さん)は卯之吉を妬み、彼に難癖をつけて、追い出してしまう。

ヤクザを辞めて、女房(かおりさん)、それに息子の三人で平和に暮らしている卯之吉のもとに二代目の手下(愛之介さん)がやって来て、「二代目が流れ者に傷つけられた。それでその流れ者の子供を人質にとっているが、依然として一家が危ない。それで卯之吉にその流れ者を討って欲しい」と一家からの伝言を伝える。とめる女房、子供を振り切って一家に駆けつける卯之吉。

二代目はその卯之吉に一家への忠誠を証明するために人質として捕らえていた子供を切るように言う。子供を手にかけることを躊躇う卯之吉に二代目は迫る。目隠しをされた卯之吉は仕方なく子供を切ってしまう。しかしその子供こそ、一家の手下たちが家に押し入って捕らえてきた卯之吉の息子だった。家に押し入った際に、女房も切られていた。すべてが彼を陥れるための作り話だったことを知る卯之吉。二代目たちはそれでもあきたらず、卯之吉の掌を刺し貫く。彼らが去ったあと、息子の死骸を抱いて嘆き悲しむ卯之吉。

邪魔者を消したつもりの二代目だが、祝いの席から出てきたところを、今度は彼自身が同輩に殺される。そこに復讐の修羅と化した卯之吉が動かない手に短刀を括りつけやって来る。彼は太刀をうけながらも血みどろになって闘い、ついに同輩とその手下を殺し、復讐を遂げる。しかし彼自身も血の海の中で息絶える。

 最後の血みどろのシーンは凄惨のひとことです。もっと怖ろしかったのは卯之吉(春之丞さん)のぎらぎらした目と形相でした。でもそれらも、自分が息子を殺してしまったことが分かって、悲嘆にくれ、後悔に苛まれるその前のシーンの悲惨さがリアルだったので、生きてくるのです。

春之丞、畏るべし。すごい役者さんです。

このような不条理劇を選ぶということに、しかも千秋楽も迫った日に当てるということに彼の自信と矜持を感じます。喜劇はもちろんのこと、悲劇もこの高みまで演じられるということは、この劇団のこれからの舞台の質が保証されたということです。

また、京之介、寿美両座長の助演、これも特筆ものでした。ここまで憎たらしく演じるのは並大抵の力量ではないことを窺わせます。

それに、かおりさんの女房、春之丞さんのアドリブにも上手く応えられて、堂に入っていました。演技力のある女優さんがおられるということは、この劇団の大きな強みですね。