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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『三本の矢』劇団花吹雪@新開地劇場 2010年11月28日

昨日、11月28日のお芝居は『三本の矢』でした。もちろん毛利元就の有名なエピソードにちなんだものです。

浪速の材木問屋の主人が突然亡くなり、一家では35日の法要を営む準備をしている。なくなった主人には三人の息子がいるが、長男(春之丞さん)は長崎に店の仕事で出かけていて留守である。三男(真之輔さん)が幼馴染の娘(あきなさん)に長男からの手紙を渡そうとしていたのを、次男(愛之介さん)が見つけ二人の中を邪推する。次男はその娘が好きだったのである。長男とその娘とが実は将来をいい交わした仲とは次男が知らなかったための誤解である。

次男の嫉妬心に乗じて、番頭(寿美さん)は入れ知恵をする。それは三男に彼の出生の秘密を明かすことだった。三男は店の一番古い女中で、主人が妻を失くした後、残された二人の息子の母親代わりとなったきたお徳(かおりさん)と主人との間の子供だったのだ。

三男はそれを知って衝撃をうけるが、やがてそれを受け入れる。そして母のお徳にそれまでの不孝(母として礼をつくさなかったこと)を詫びる。二人が語らっているところに次男と番頭がやってきてなくなった店の主人の「遺言状」をみせる。それには二人を追い出すようにと書いてあった。

三男とお徳は35日法要の席にやってくるが、早く出て行けと次男、番頭に罵られる。ちょうどそのとき、長崎での用を済ませた長男が帰ってくる。そして次男を叱る。さらに、遺言状が次男の手によるものであることを白状させる。

長男はお徳を仏壇の前の上段に座らせ、彼女を「おっかさん」と呼んで、彼女が自分たちに長年母親代わりをしてきてくれたことに深く感謝する。長男は三男、次男の手と自分の手を重ね合わせて、これからは元就の「三本の矢」の喩えどおり、力を合わせて店を盛りたててゆくことを父の仏壇に誓う。

最後に長男は番頭の恐ろしい陰謀を暴露する。それは番頭が医者に頼んで手にいれた毒薬で、店の主人を殺したという事実だった。陰謀がばれたと知った番頭は短刀で長男に切りかかるが、それをかわしたときに、長男は誤って番頭を刺してしまう。丁度そこへ十手持ちが法要にやってきて、現場を見てしまう。

お徳は三男に短刀を握らせ、彼に「自分がやりました」と名乗り出るようにさせる。それをとめようとする次男、また次男をとめる長男。この息づまるシーンの後、三男はお縄になって岡っ引きにひかれてゆく。それを見送る長男、次男、それにお徳。

自分が犠牲になることですべてがうまく治まると言い残して去ってゆく三男の悲壮な自己犠牲。とても重苦しいエンディングでした。ハッピーエンドになりかかったところで悲劇に逆戻りするというこのパターンは、最初から最後まで「悲劇」という劇よりも悲しみが倍増されます。

見ている側にとってもきつい。「なんでこうなの?」って思ってしまいます。不条理が条理に勝つのはなかなか承服できないものです。現実の世界と近いのでリアルすぎるからでしょう。いや現実をより真実に近づけているからでしょう。

真之輔さんは、明るい無邪気な少年から自己犠牲という不条理界で苦悩する青年への変化を雄弁に演じられていました。最後に引かれてゆく場面は涙なしには見られませんでした。

そしてお徳を演じられたかおりさんの素晴らしい演技!この演技がなくては芝居そのものが平板になってしまいます。日陰で生きてこざるを得なかった身分の違い。自分の息子への思い。主人への、そして店への義理から自分の息子を犠牲にしなくてはならない哀しみ。こういうもろもろの感情を丁寧に演じ分けられていて、説得力がありました。いつも彼女の熱演と巧さに感嘆していますが、この劇ではとくにそうでした。それに人柄のよさが良く出ていますよね。演技そのもににも踊りにも。将来はどんな大女優さんになられるのか、楽しみです。

それに番頭を演じられた寿美さんの憎たらしさは抜群でした。こういう役は案外難しいのだと思います。それに観客の冷たい視線に耐えなくてはならないですしね。

春之丞さんはあいかわらずパーフェクトの演技でした。理性的で、それでいて冷たくなく、温かい人柄の長男を演じるのにぴったりの方ですよね。実際もこういう個性の方なんでしょうね(と思わせるところが巧いですね)。

花吹雪さんのお芝居が当分観られないのは辛いです。まあ、18日、それに14日も鈴成には出かけますし、22日には一心寺公演が待っています。楽しみがお預けなのも、たまにはいいかもしれません。