okamehachimoku review

大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『次郎長』都若丸劇団第弐回特別公演@新開地劇場 2008年4月9日収録DVD

まず、2008年時点で若丸さんがここまでのものを創り上げておられたということに、驚嘆した。大衆演劇でここまでの完成度の高い芝居を観たことがない。否、商業演劇でもない。おそらく強い信念をもって、とてつもなく桁外れの構想を、実行に移したというべきだろう。計画倒れになってしまうリスクを顧みず、チームのひとりひとりの力とやる気をひたすら信じて実行したというべきか。どの場面を切り取っても、ひとりとして気を抜いている人がいない。参加者全員の目、思いがただ一点に集中している。それは座長若丸さんの「壮大な企画」を成功させること、その一点に。

 

清水次郎長という人物の花も実もある遊侠道が、走馬灯のように駆け巡るエピソードによって観客の前に示されて行く。それらのエピソードは次から次へと疾走するかのようにバトンタッチされてゆくと同時に、一つ一つが焦点を持っている。それは次郎長の「成長」である。民衆の強い願望によって創り上げられ「次郎長譚」として流通している物語を組み合わせ、若丸版次郎長を魅せたのだろう。若丸版次郎長が他バージョンの次郎長を超えているのは、次郎長がただの遊び人(「不良」)からヒーローとしての資質を獲得して行くその過程、ヒストリーを前面に押し出した点だと思う。若丸さんはおそらく、この時点でご自分自身のヒストリーと次郎長のそれとを、重ねあわせていたのではないか。若くして(幼くしてというべきか)一座の長になり、好むと好まざるとに拘らずその構成員を束ねて行かなくてはならない。それは、若さゆえに赦される甘えをすべて裡に押し込めて、表向きには「強い長」を標榜しなくてはならないということである。一瞬の気の緩みも許されない厳しい道だったに違いない。ちょうど次郎長のそれがそうだったように。この記録DVDは、だから、若丸さんのそれまでの「役者道ヒストリー」の到達点である同時に、緊張の解放(リリース)でもあったように思う。若丸さん自身がそう意識していたかどうかは分からないけど。とはいえ、ここまでのものをこの時点で創り上げたということは、どこか空恐ろしい気さえしてしまう。

 

でも、このあとも毎年完成度の高い芝居を誕生日にみせておられるということは、あれで「あがり」ではなく、まだまだご自分の可能性に挑戦し続けているということだと思う。それにどこかホッとする。2008年当時にこのお芝居を観なくて幸いだったかも。詳しい芝居内容を書いている時間と気力がないので、それはまた近いうちにということで、一応以下に「チーム若丸」の面々を記載しておく。

 

橘大五郎さんが参加しているのに驚いたけど、このとききっと大きな影響を受けられたに違いないと確信した。紀伊国屋章太郎さんの渋い演技が光っていた。もちろん、これ以降誕生日公演の常連になる東映の方々の演技もすばらしかった。殺陣も迫力があった。葵好太郎さん、大川良太郎さん、それぞれのニンに合った役を配されていて、こういうところも「さすが若丸さん!」と、おもわず叫んでしまうほどである。