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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『俺たちゃ渡り鳥だよ』都若丸劇団@新開地劇場4月15日昼の部

お芝居は『俺たちゃ渡り鳥だよ』。みたことのないお芝居でした。題名から任侠ものを想像するでしょうが、任侠ものにつきものの「敵討ち」の要素は極力ひかえられ、抱腹絶倒の喜劇でした。筋は他愛ないほど単純でした。

旅をかけている途中にたまたま出逢った座長の若丸さん演じる赤穂出身のヤクザ者と剛さん演じる吉良なんとやら、この二人はなぜか行く先々で出くわし、それを互いに迷惑だと思っている。今日も今日とて道中で出逢ってしまい、罵り合っているところだった。そこにヤクザに絡まれている娘(ひかるさん)が逃げてくる。二人でその娘を助けたのだが、礼にと簪をもらったのは若丸さんの方だった。娘に年齢を尋ねる若丸さん。ひかるさん答えて曰く、「18歳!」。「ウソつけ!」と若丸さん。ここで笑えました。

 

娘に一目惚れしていた剛さん、なんとか自分だけが娘の関心を買おうとする。娘が宿をやっているということだったので、その宿に泊まろうと出かけるが、またもや宿の前で若丸さんに出くわす。仕方なく二人一緒に泊まることになるが、その間も二人は布団のことやらなんやらで揉め続ける。やっと寝ようと行灯を消す段になり、またもやどちらが消すかといいあい、剛さんが消すことになるが、ここですかさず客席から「待ってました!」のかけ声が。「芝居が違うでしょ」と剛さん。「それは22日のお芝居」という若丸さん。もちろんそれは『泥棒道中』のこと。私も去年11月にみて、ブログ記事]にしています。

 

でも客席の期待は否応なく盛り上がっています。「なんでこんなことになるの」とぼやく剛さん。そこへ「ウララ ウララ ウラウラで ウララ ウララ ウラウラよ」の音楽が!すかさず踊り出す剛さん。踊り終わって、「アンコール!」コールがかかったところも、『泥棒道中』のときと同じでした。二曲踊ったところで、三曲目は座長との「相舞踊」まで披露して下さいました。すべて即席とは思えないオカシサでした。今日来てもうけものをした気になりました。おつかれさまでした、そしてありがとうございました、座長、副座長!

 

やっと行灯を消し、二人並んで寝ているが(このシーンはまさに『泥棒道中』そっくりです)、互いに奥の娘のところへ忍んでゆこうとし、バレてしまう。剛さんが若丸さんの寝息を確かめ、その傍を離れようとすると、なぜか剛さんの足には腰紐が巻き付いている。今度は若丸さんが剛さんの寝息を確かめ傍を離れると、今度は剛さんがその足を掴む。というわけで、二人とも奥へ忍び込むのを諦めたところへ、娘の叫び声が。娘は土地のヤクザに連れて行かれてしまう。

 

娘を助けようと支度をする剛さん。若丸さんに一緒に救出に行こうと誘うが、「土地のヤクザとやり合っても勝ち目はない」とにべもなく断られ、挙げ句の果てに「お人好し」呼ばわりまでされる。

 

若丸さんが一人旅立ってしまったので、仕方なく一人で救出に向かい、ヤクザと対決することになる剛さん。娘をみつけてかばうが、相手方の多さにかなりビビっている。危うく斬られそうになり、「もうここまで」と観念した瞬間、飛び入ってきた若丸さんの助太刀で助かる。二人でなんとかヤクザを始末し、剛さんは改めて若丸さんに感謝の言葉を述べる。若丸さんは剛さんが娘にぞっこんなのを見て取り、「うまくやる」ようにと言い残し、再び旅立って行く。

 

娘と残された剛さん。清水の舞台から飛び降りたつもりで、娘に「好きです」と告白。娘にも彼を好きかどうか聞く。「好きですよ」と応じる娘。「やった!」と思った次の瞬間、娘をよぶ男の声。追いかけて来た男(キャプテン)が自身を娘の婚約者(それも29歳!の)と自己紹介する。意気消沈した剛さん。その場から立ち去る。

 

若丸さんが旅途中で休んでいるところへ、大声をあげ、わめきながら剛さんが走ってくる。若丸さんに顛末を話して聞かせる。「白塗りの自称29歳の男が娘の婚約者だった!」と嘆く。「あの娘だって、どうみても俺たちより年上だぜ。それが18歳だなんて。どちらもすごいサバよみだ」と慰める若丸さん。ふたたび二人で旅をかけることにする。

 

このお二人の阿吽の呼吸の絶妙の掛け合い。今日のものはほとんどがアドリブだったと推察されますが、こんなに息の合ったコンビはないでしょうね。若丸さんについては当然と分っているのですが、それを受ける側の剛さんの当意即妙さに、改めて感心、感動しています。

 

舞踊ショーでは座長、若丸さんの踊りが光っていました。女形では「友達の詩」、もちろん中村中さんの作詞作曲のものです。白地に黒の模様、目も覚めるような美しさでした。立ちでは「転がる石」。真っ赤な着物で、猛烈なエネルギーを放出されていました。若丸さんの場合、ただやみくもにパワーを発散させるのではなく、緻密に計算された動きとしてためこんだエネルギーを放出されます。

座員の方々の踊りも、どれも納得の行くものでしたが、11月に明生座で観た折より趣向がかなり変わっていたように思いました。すべて「衣替え」で、より斬新さ、軽快さが増していました。その一つの例が座長と副座長による「出張物語」。若丸さんが女形、剛さんが立ちで、夫婦の心の綾を軽妙に踊られ、楽しかった!

斬新といえば、ラストショーの「Holding Out For a Hero」も初めて見る新しい振り付けでした。キャプテン以外全員参加、統制がとれていて、お稽古の量が半端ではなかったことが窺えました。すばらしかった!ここまでそろうのはさすが若丸劇団!他ではみられません。若丸劇団の高い完成度を知ると他劇団の拙さ(とくに座員の)がよく分かります。とにかく一般の人が考える「大衆演劇」のレベルではありません。日本を代表する劇団として人に紹介しても納得されるでしょう。なにしろあの横尾忠則さんが西脇で観て絶賛していたのですから、その芸術的グレードの高さが分っていただけるでしょう。私はこの26日に仕事仲間の英国人で、ご両親がロンドンで役者だったという方を連れて行く予定です。彼は去年訪れた通天閣界隈の串カツ屋を再訪したかったようなのですが、説得しました。