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大衆演劇のお芝居ってどんなの?(独断・私見の)大衆演劇観劇ガイド

『万吉涙唄』都若丸劇団@梅田呉服座 7月22日昼の部

以前にも一度みているのだが、記事にしていなかった。タイトルでは思いだせなかったけど、幕が開いた途端あれだと分かった。というのも若丸劇団ではめずらしい現代劇だったから。

すぐに藤山寛美作だろうと見当はついた。ネットで検索すると、このお芝居、藤山寛美十八番箱 DVD全12巻の第4巻に入っている『下積の石』のアダプテーションだとわかった。DVDに付いたキャプションには「貯えた大金をはたいて心中ものを助けた労務者「万吉」。しかし、手柄は飯場仲間の「仙太郎」に。哀調をおびた山中節が切なく「万吉」の心に響く・・・」となっていた。それが大筋。以下、もう少し詳しく。

温泉の工事現場で働く二人の労務者、万吉(若丸)と仙太郎(剛)。二人は同僚からは外れ者扱いされている。万吉は人づきあいの悪さで、仙太郎は遊び人のため。二人はそれでも気があう友だち。仙太郎、今日も遊ぶ金を万吉から借りようとするが断られる。それをみていた現場監督の娘(京香)が彼に3万円渡す。万吉は彼女にほれているのだけど、彼女は仙太郎が好きなのだ。

万吉は親の墓をたてるため520万円も貯めている。それを現金で束にし、風呂敷包みにして腰に巻いている。風呂へ入る時には仕舞風呂に入り、その風呂敷包みを濡れないようにしなくてはならない。どういう「工夫」をしているのかを説明する若丸さん、笑えます。寛美版とはおそらくかなり違っているのだろうと思います。完全な若丸ワールド。

今日も今日とて二人は仲間はずれにされて、川の土手に座っている。「こんな場所で男二人はつまらない、アベックだったら」という仙太郎。「アベック」にひっかかった若丸さん。「カップル」というのだという。発音、良かったです。ついでに(?)果物の名前を英語でいってみせる若丸さん。山中節を民謡の先生から習っているという(Youtubeに寛美版の一部がアップされていますが、そこにもこの箇所が入っています)。聴かせてくれという仙太郎のリクエストに応えて、「ハァー」と高音で一声。そこしかまだ習っていないとの由。笑えます。

そのとき、仙太郎が書き置きを見つける。それには「サラ金地獄で500万円の借金があり今から一家心中をする」とあった。慌てる仙太郎。慌てる万吉(ただし、こちらはお腹に巻いた風呂敷包みを抑えて)。なんとか助けなくてはと焦る仙太郎。でも彼は泳げない。ここでの二人のすったもんだ、笑えます。上手い!で、万吉は風呂敷包みを仙太郎に託して(このとき札束を出すのに、幾重にもくるんである新聞紙を一枚、一枚、はがします。なんと6、7回!)、川に飛び込み一家を助け出す。

翌朝、飯場の仲間達が新聞記事をみて騒いでいる。記事には仙太郎が一家心中を救い、しかも520万円も彼らに寄付したとあった。起きて来た仙太郎、記事をみて驚く。そこへ昨日の救助で疲れ、いつもより遅く万吉も起きて来る。新聞記事を読んでこちらも驚くが、みんなが現場へ立ち去った後、仙太郎に詰め寄る。記者が勝手に書いた記事だと弁明する仙太郎。ここでの二人のやりとり、そして万吉の「あきらめ」がしんみりさせられます。 

お金は仕方ないけど、せめて自分が救助したのだとみんなに伝えてくれという万吉。ここでの二人のそれぞれの思惑、その行き違い。脚本がすばらしい。人の心理の妙をみごとに描ききっています。

結局二人は互いを責めあい、そのあたりの物をつかんで殴り合いの喧嘩になる。監督の娘が出て来て、万吉をなじる。その娘に仙太郎は事実をうちあけ、万吉こそがこの美談の本人だという。そして万吉と一緒になってやれという。万吉と一緒になるくらいなら死んだ方がマシという娘のことばを聞いた万吉、肩を落とす。

現場監督がやってくる。そして仙太郎を見直し、娘との結婚を許すをいう。現場を変えてくれるように、監督にたのみこむ万吉。他の温泉へ行くことになる。

万吉は二人を祝福し、仙太郎にはもう遊びをやめるようにと忠告したあと、怪我をした足をひきずりながら、万吉は別の現場へとその場を去って行く。このときのおもしろい歩き方、若丸さんならではのもの。笑えると同時に哀しい。

 笑いの中にペーソスが。これがいかにも若丸さんらしい。